風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その8 第二章 青春⑤


クリスマス休暇にパスカルの家に招待されたセルジュは列車でリヨンまでやって来ました。


今から列車に乗れば夕食には間に合うぞ、とパスカルが言っていたのでラコンブラード学院とリヨンはそれほど離れていない模様。


ラテン語の得意な優等生を招待した、とパスカルの知らせを受けて駅にはパスカルの姉や妹たちが待ち構えていました。






にぎやかー



さて、舞台はただいま1880年のフランスでございます。

日本は明治13年。


フランスは第三共和政下で、資本主義が急速に成長し帝国主義の段階を迎えていく時代でした。


政情は不安定ながらも平和な繁栄の時代で、人々の生活は安定し富裕層では社交生活が華やかに繰り広げられました。


リヨンは19世紀前半、ヨーロッパ最大の絹織物・繊維工業都市です。


そして、この時代の女性のファッションのトレンドは「バッスルスタイル」です。







洋服のシルエットは、スカートの前部が平らになり後ろの腰のみにふくらみがあるラインです。


日本でも明治維新で西洋化が進み、良家の令嬢や芸者とかがドレスを誂えてますが、鹿鳴館時代のドレスはこのバッスルスタイルでした。






バッスルドレスを着たパスカルの一つ上の姉メイは見るからにあざとい感じ



なんとパスカルの家は二男六女という子沢山。

気さくなお父さんとお母さんの会話で、夕食の席はにぎやかです。







セルジュは幼い頃に両親と別れてバトゥール子爵家に引き取られました。


食事時は大き過ぎるテーブルにぽつねんと座るような寂しいものでしたから、家族みんなで囲むパスカル家の食事はさぞや楽しかった事でしょうね。


そしてパスカルの姉と妹、特にメイなどはセルジュに興味津々で質問責めにしてきます。


セルジュは洗練された紳士ですからね、女子供には好感を持たれるんですよね。


と言っても、パスカルは留年してますから17歳ですがセルジュはまだ14歳です。




一番小さい弟ミシェル




パスカルが兄弟の中で一番気に入ってるというミシェルは内気そうな男の子。

6歳という実年齢よりも幼く見えます。





パスカルは普段は飄々としてるけど、ジルベールの事で苦悩するセルジュの善きアドバイザーといったキャラクターです。


理論的でインテリジェンスに富み、いつも深い事を言うんですよ。



そんなパスカルがミシェルの次に仲がいいのが妹のパトリシア、通称パットです。


知的なそばかす美人のパットは重症な美人コンプレックスです。


ほんとは美しいのに自分はブスだと思い込んでる。


でも顔は駄目だけど身体は綺麗だと思っていて、その美しさを絵に残そうと、パスカルの部屋に忍びこんで自分のヌードを絵に描いている、ちょっと変わった女の子なんです。

 


パスカルとセルジュは出かけたと思い自分のヌードを描いているパット


ところが出かけたと思ったセルジュは部屋に戻っていて、パットのとんでもない場面を目撃してしまうわけです。


困惑するセルジュに、自分はメイ姉さんのような美人ではないが身体は姉さんよりも綺麗だと思ってるつって、自分を見て欲しいとグイグイ来るんだね。



セルジュも思春期の男の子


からだが破裂してしまう!!




そしてなぜかパットにジルベールの姿が重なってしまう。


セルジュに綺麗だと言われ気が済んだのか、パットは感謝の言葉を残して部屋を出ていきます。


パットがグイグイ来るからセルジュの貞操の危機かと思ったねー。


セルジュ抱いてとか言うのかと思ったら、そこまで図々しい人ではなかったようです。


パスカルが女兄弟の中で真の淑女はパットだけだと言ってた意味がなんかわかります。





そんなこんなで新年が明けると、おしゃれには無縁だったパットの美しく着飾った姿が───。



さなぎから蝶に生まれ変わるような大変身に皆ビックリ



やっぱりパットは美人だったなー、と独りごちるパスカルですが彼女にどんな心境の変化があったのかまでは知りません。


セルジュはそんな事を他人にもらす人柄ではないし、裸を見せた事も綺麗だと言ってくれた事も二人だけの秘密なのです。


そして自分は綺麗じゃないと卑下していたパットが、私だってまんざらじゃないわ!(だってセルジュが綺麗だって言ってくれたんだから)と自信を持って歩き始めたって事なんでしょうね。




新年を祝う教会の慈善パーティーで踊る
セルジュとパット




セルジュは貴族だからダンスはお手のもの。

美しく変身したパットと共に、そのお相手の若すぎる踊りの名手が人々の注目を浴びます。







パスカルの家に来てセルジュは彼を深く知る事となりました。


家族、パスカルの持つ夢、彼が考えている自分の将来。


セルジュは今までそんな事を考えた事はありませんでした。






そして3年も落第しているのは首席で卒業する為だという、実にパスカルらしいユニークな考え方にもセルジュは驚かされるのです。







パスカルの家の平和なだんらん




みんないい人でやさしくしてくれて楽しいんだけど、ふっと疎外感を感じたりね、あるよね。


そしてセルジュは、あの雪の日のジルベールの後ろ姿が何かにつけて思い出されるんです。


何か目に見えぬ力が呼びかけるようで、セルジュはわけもなく孤独を感じてしまいます。



そんな時、みんなで出かけたスケート遊びでミシェルが氷の割れ目に落ちてしまうのです。


セルジュ飛び込む


頭より体が先に動いちゃうんだね



ミシェルは身体が弱く生まれた時から長くは生きられないと医者に言われた子なんです。


肺炎をおこしたらもうおしまいだ、とパスカルは心配で真っ青になってしまいます。


人間て産んだほうに責任があると思うか?
それとも生まれた人間に?


パスカルはセルジュに問いかけます。


実はミシェルという子は、父親の浮気で生まれた腹違いの弟だったのです。


他人からは平和な家庭に見えても実際にはそうでもないって、よくある事なんですよね。


ミシェルの為に家族にいさかいが起こったのは当然で、しかし子供に罪があるのかとパスカルはミシェルがほっとけなかったんですよね。





休暇も残り3日ですので、セルジュはパスカル家に別れを告げ一足先に学院に戻る事にします。




駅に見送りに来てくれたパット



パットにとって忘れられない人となったセルジュですが、まだ恋と呼ぶには淡い感じです。


それよりもパットはセルジュに敬愛の念を抱いているのです。


好きな人を尊敬してるって幸せだね。










さあ、セルジュが帰るよ───。