風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その15 第四章 ジルベール③


ジャン・ピエール・ボナール男爵は彫刻家であり、ショタが好きな男色家です。


ジルベールがオーギュストに逆らい当主の権限で滞在を許してしまった為に、この危険な男はジルベールに熱中して付きっきりになります。


子供を扱うのも上手いのかもしれない。
乗馬に連れ出したり、ゲームに興じたり、オーギュストは絶対してくれそうにない事を一緒にやってくれるのです。


しかし何しろ売ってくれつって来たんだからね。執事とオーギュストはボナールの危険性を認識しています。



このままでいいのかと危ぶむ執事に、オーギュストは「彼を子供だと思った事は一度もない」と答えます。


自分のまいた種なんだから自分で刈り取ればいい。
無知は致命的な事だと知るだろう、と驚くほど冷淡な事を言い出すのです。


執事はそうなっては遅いと言いかけますが、苛立つように「わたしだって何も知らなかった!」
と、喚き立てるので言葉を失ってしまいます。


ああ、そっかー。執事は涙ぐみながら、ジルベールにつらくあたるのはやっぱ自分や兄夫婦への恨みだったんだな、と考えるのです。


しかしながら兄夫婦がジルベールに執着を持っているならともかく、その存在を忘れてる位なんだから復讐にはならないですよね。


それにオーギュストは、ジルベールが自分のどんな教育にも染まらなかったから、自分の負けなんだと言うんです。


オーギュストの理屈は滅茶苦茶なんですよね。





あぶねーあぶねー


可愛いと思えば躊躇なく愛でる。
でも、愛してるよと言ってキスしてきたボナールをジルベールは激しく拒絶します。


ボナールはジルベールが美しいだけでなく、子供にもかかわらず性的に人を魅きつける力を持っていると、邪な目で見ているのです。


知らない人から見れば子供をへんな目で見る変態でしかないんだけど、まあ芸術家だし価値観も道徳観も違うんでしょうね。


だからオーギュストも当然この子に手を出しているに違いない、と思い込んでいるのです。


ところが───。





これ以上ないくらいに愛されるべき存在になりたがっているのに、オーギュは自分に何もしてくれないと嘆く悲痛なジルベール。


子供が愛されたいと願うのは自然な欲求ですが、これではボナールにからめ取られるのは目に見えています。







オーギュストの気を引きたくて
わざと怒らせるような事をするジルベール


オーギュストは責め苛む




それにしてもジルベールは感覚的にこの虐待を、オーギュストとのコミュニケーションと捉えているように見えます。病んでる。






ちょっと優しくなる、
ジルベールはこれがいいんだろね




暴力振るって抱きしめるとか、DV夫じゃあるまいし。


よくいう虐待の連鎖というやつですが。
子供の虐待事件があると世間は親を責めがちですが、子供を虐待する親も子供の頃に虐待を受けていた経験があるというやつね。
もちろんそれが子供を虐待していい理由にはならないし、虐待を受けた経験があっても必ずしも虐待する大人になるわけじゃありません。
ただ虐待された人の心の傷というものが、その人のその後の人生にどれだけ多大な影響を及ぼすかっていうね。
虐待されて育ち、親になる気なんてないのに親になってしまったオーギュストも不幸な人なんですよね。






さてその一方で、ボナールは屋敷内をあれこれ調べ回り、ついにジルベールの父親はオーギュストではないのか、という所に行き着きます。


ジルベールがコクトー氏の実の息子ではなく、妻と義弟の不義の子であると知れたら大変なスキャンダルです。


コクトー家にとって重大な秘密を掴んだボナールは、もう大人しく指をくわえて見ている必要はないと実力行使に出てしまいます。





ジルベールをコクトー家からさらってしまった




雨の中を突然パリへ発ったボナール。


ところがその後ジルベールがどこにもいない事に気付き、屋敷中は大騒ぎになります。



広いから探すの大変


でもオーギュストは冷静




恐らくボナールが連れ出したんだろう。見つからなかったらあきらめるか。って、冷たい。


おまけに、あれは結局そういう風に生まれついているのかもしれないな。とか言うし。


執事もさすがに、そんな他人事みたいに自分の子供じゃないすかと言うと、誰がそう決めたの?ジルベールは生まれた時から父も母もいないんだよ。一人で生きる獣なんだよ。つって。うーん、オーギュいったい何が言いたいの。



その頃ジルベールは


麻薬を使われて意識朦朧としている



いつの時代も子供は社会的弱者で、性的搾取や性的虐待を目的に子供をさらうとか許せません。



ジルベールは売春宿が建ち並ぶあやしいホテルに連れ込まれてしまいます。









この後自分の身に大変な事が起きるのに、何も知らずあどけないジルベール。


こういう対比が上手いんですよね。





ボナールは余裕でジルベールを追い詰めていきます




ボナールは今までは紳士的な態度でジルベールに接していましたが、打って変わって暴力的になり欲望をむき出しにしてきます。


気丈に抗えども相手は大人。
ジルベールはボナールに犯されてしまうのです。







だいたい10歳になるかならないかの子供と、大人の男じゃ体格差があり過ぎじゃないですか。


恐怖と苦痛で泣き叫ぶジルベールがリアル過ぎて見るに耐えないんです。


さすがにこのへんになってくると、美少年がとか、嬉し恥ずかし寄宿舎がとか、萌える要素もトーンダウン、もう失速。


作者はこのシーンをどうしてこんなにもあからさまに描いたんですかね。


自分だったらここまで描いちゃったら読者が仰天して引くかもとか弱気になって、なんかオブラートにくるんだみたいにしちゃうかも。


それに描き手もとてもしんどいと思うんですよね。


恐ろしい、酷い、見たくない事も、グイグイ見せてくるんですよね。


少女誌でここまで描き切るとはすごい事ですよ。
偉大です。




 
すべてが終わり、ボナールが目を離した隙にジルベールの姿は部屋から消えてしまいます。




彷徨するジルベール


極度のショックで精神崩壊を起こしてしまったかのようです。

海辺をさまよっているうちに波に流されてしまいます。







偶然にもジルベールを見つけたのは、以前ジルベールの胸をさわったエロガキ。

彼はタズトと言うんですが、地元の漁師町の子供です。






ボナールもジルベールを探し回っていました。






そしてやっと見つけますが、タズトがこいつは悪人だと直感しジルベールを連れて逃げ出します。


おませなガキだから、ジルベールがどんな目に合わされたのか一目で理解して、まるで騎士のようにジルベールを守り海の天使城へ、オーギュストの元へ運んでくれたのです。