風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その29 第六章陽炎①

さて、物語の舞台は再びラコンブラード学院に戻って来ましたが、前どんな話だったか覚えてる?
 
セルジュに興味を抱いたオーギュスト・ボウに夕食に招待されしょうがなく行ったら、嫉妬したジルベールがぷんすかで「おまえなんか憎んでやる!」とか言ったんじゃなかったっけ(テキトー)
 
 
 
 
クリスマス休暇にセルジュを家に招待してくれたパスカルは、スケート中に氷が割れる事故で弟のミシェルが危篤になってしまって、その後学校をずっと休んでましたのよ。
 
本日は我らがパスカルが飄々として学院に戻って参りました。
 
セルジュとカール、それから以前はジルベールが原因でちょっとギクシャクしちゃったけどクルトやネカーも大騒ぎで出迎えて少し照れくさそうなパスカルです。
 
けれどセルジュは心を痛めていました。
 
パスカルの妹のパトリシアから手紙を受け取っていたからです。
 
 
 

ミシェルは亡くなってしまったんだね
 
ミシェルはパスカルの腹違いの弟で、父親が浮気して出来た子供でした。
 
幸せそうに見えたパスカルの家にも悩みがある事を知ったセルジュ。
 
「人間て生んだ方に責任があると思うか?それとも生まれた人間に責任があるのか?」
 
パスカルがセルジュに問い掛けた言葉を思い出します。
 
 
子供が死ぬのは悲しいなぁ・・・
 
 


パスカルはショックで部屋に閉じこもってたんですと。
 
兄は強いようでこのうえなく優しい人だから、兄を助けて欲しいとパットの手紙にはありました。
 
でもね、お悔みの言葉なんて言わなくたってこのハグでセルジュの気持ちは伝わってるよね。
 
 

 
そうして、セルジュは実はパスカルの他にも懸念があったのです。
 
それはオーギュスト・ボウがたびたびセルジュに手紙を寄越す事でした。
 
 
 
シオン・ノーレの香り・・・・
 

ジルベールに気兼ねしてオーギュストからの手紙をセルジュは部屋の外で開封しました。
 
だってジルベールの方がこの手紙を待ってるんじゃないかと思うと、彼の前では読めなかったのです。
 
これと言った内容でもないのになんで自分に手紙を送ってくるのか、セルジュはオーギュストの真意を計り兼ねていました。
 
きっと上質なレターセットに美しい字で書いてくるよね。
 
シオン・ノーレ吹きかけてWWW
 
 
手紙を読み終えて部屋に入ろうとドアを開けると、ジルベールはいなくて閉めきった部屋のこもった臭いがムッとします・・・・いや、思春期の男の子のこもった臭いがムッとします・・・・いや、まさかこの部屋で?ジルベール??
 
セルジュは思わずジルベールのあれやこれやを妄想してしまうのです。
 
 
 
部屋の空気を入れ替えて落ち着こう
 
 
セルジュはとても誠実で潔癖な少年ですから、ブロウみたいにジルベールを性的な相手にしようなんて考えた事は一度もありません。
 
そんな目でジルベールを見るのはとても無礼で侮辱的だと思ってるんじゃないかな。
 
だけどセルジュも健康的な思春期の男の子ですから、性的欲求が生じたり衝動的になったりしちゃうんですよね。
 
 
ただセルジュにはジルベールの性的な魅力はまだわかってないでしょうね。
 
セックスを喚起させるような雰囲気とか様子に当惑してるだけだから。
 
まあそれが色気とかセックスアピールってものなんですけど。
 
セルジュ可愛いなー。
 
 
 
一方、ジルベールはと言うとセルジュの気も知らずに、ロスマリネの下っ端を片っぱしから誘惑していました。
 
総監室の隣の客間に忍び込んでは白昼堂々と関係を持つジルベールに、不穏な空気を察したロスマリネは現場を押さえようと躍起になっていたのです。
 
しかし勘が鋭いジルベールは部屋の外のロスマリネの配下の気配にすぐに気付き部屋を後にします。
 
 
 
部屋を出た途端セルジュと遭遇する
 

まだ怒ってるのね~
 
ところが次の瞬間、ジルベールはセルジュがオーギュストからの手紙を持っているのに気付き突然奪い取ります。
 
また手紙が来たのね。
 
驚いたセルジュが「それは君あての手紙じゃない」と叫んでもまったく聞かず封筒を乱暴に破り捨て夢中で読み始めるのです。
 
その必死な様子にセルジュはしばし言葉を飲み込んだままジルベールを見つめています。

が、ジルベールはもうセルジュの存在など忘れてしまったように手紙から香るシオンノーレにオーギュストを思うのでした。
 
まるで子供のようなジルベールの行動に怒る気もせず「気がすんだかい?」と、セルジュは手紙を返すように促します。
 
 
まったく子供みたいだね
 

この手紙は僕の物だ。僕の所へだけ来る手紙だ。
 
震えるようにつぶやくジルベールの心をセルジュはまだ知りません。
 
ジルベールは手紙を投げつけセルジュを思い切り突き飛ばすと走り去ってしまうのです。
 
はてさて困ったものです。
 
 
それよりも、手紙の内容が目に入ったセルジュは愕然としてしまいます。
 
オーギュストはマルセイユでセルジュの従妹のアンジェリンと会ったと報告して来たのです。
 
セルジュは今も自分がアンジェリンを傷付けたのだと自責の念に苦悩しています。
 
しかし手紙には、マルセイユに療養に来たアンジェリンは随分と元気になったし傷も癒えているとありました。
 
その内容からしてアンジェリンが怪我を負ったいきさつをオーギュストは既に知っているようでした。
 
それはきっとあの叔母がある事ない事吹聴したに違いない。
 
親切そうに書いてあるオーギュストからの手紙を見て、セルジュはこの人には知られたくなかったと思うのでした。
 
 
 
その頃総監室では・・・
 

ロスマリネはイライラしていました。
 
短気だからね~
 
ジルベールの現場を押さえて厳罰に処してやろうと思ってるのに、ジルベールの逃げ足が速くてちっとも上手くいかないからです。
 
しかもジュールがジルベールの狙いはロスマリネだと言い出します。
 
 
 
 
ジルベールは、ロスマリネは不感症だろうと言ったくらいでこんな事までは言っていません。
 
ジュールは素知らぬ顔でわざわざロスマリネを動揺させるような事を言っているのです。
 
思い通りにロスマリネはカッとしてしまい、いつも持ってる総監のステッキね、あれでジュールをぶん殴ります。
 
でもぶたれたジュールよりロスマリネの方が顔色が悪いのです。
 
ジュールはロスマリネに二度と言わないと謝罪しながら手を差し伸べますが「あの事は君の落ち度じゃないのだから」と付け加えます。
 
ロスマリネはジュールの手を払いのけます。
 
あの事?



 
ジュールの方が上手な感じが半端ない。
 
この二人の関係性は端から見ると強固な結びつきのように見えますが、単純なロスマリネと違いジュールはもっと複雑な思いをロスマリネに持っているんですよね。
 
 


そして、セルジュは自分の感情を持て余して悩んでいました。
 
セルジュは朝っぱらから乗馬
 

こんな早くから誰だと寮内ではブーイングが・・・
 
セルジュが馬で出て行く姿を見て、あんな色情狂と同室では身が持たないだろうと誰かが言い出します。
 
でももうそろそろ限界だろうと面白がって噂する生徒たち。
 
ジルベールと同室だというだけでなく、セルジュ自身も魅力的だから今や学院内ではとても目立つ存在になっています。
 
セルジュはそんな事は気にしませんが、ファンがいればアンチもいるのです。
 
ひどい事を言う者もいますが、とにかくみんな二人が気になるんですよね。
 
 
 
悩めるセルジュ
 
 
カインとアベルはアダムとイブがエデンの園を追われた後に生まれた兄弟です。
 
兄のカインは土地を耕す人になり、弟のアベルは羊を飼う人になりました。
 
ある時二人は神様に供え物をします。
 
カインは自分が作った作物を、アベルは羊の子を持って行くのですが、なんでか神はアベルのは気にいるけどカインのは気にいらないのです。
 
それに腹を立てた事をきっかけにカインはアベルを殺してしまいます。
 
これは人類最初の殺人だと言われています。
 
カインは土地を追放されますが、自分は殺されてしまうと恐れると神様はカインを殺した者には7倍の復讐があると伝え、誰にも殺されない為にカインに刻印をしました。
 
これが聖書のカインとアベルの顛末ですが、この刻印が実際どんな物だったのか気になる所です。
 
でもそれがどんな物なのか具体的な記述はないのです。
 
聖書は人間は皆このカインの末裔なのであり生まれながらに罪深い心を持っていると諭してるわけですよ。
 
 
 


昨夜、二人にはこんな事がありました。
 
外から帰って来たジルベールが、またオーギュストの手紙を見つけたのです。
 
ジルベールはセルジュに宛てたその手紙を乱暴に破り捨てながら、嘘だ、こんなの嘘に決まってる、オーギュどうしてあんたはこんな・・・・とわけのわからない事を口走っておりました。
 
セルジュが見つめておりますと、ジルベールはこんな、こんな、と取り乱すように繰り返しながら涙を浮かべているのです。
 
その様子がなんだかいじらしくてセルジュは思わずジルベールを抱きしめてしまいました。
 
 
 
しっかりと・・・・
 
 


 
ジルベールはとても驚いた顔をしますが、すぐに自分を取り戻しジルベールらしくセルジュに平手打ちを食わせます。
 


 
思いっきり決まったね
 

「恥じるがいい!人の弱みに付け込んで抱く気かい」
 
そう言って嘲笑うと部屋からいなくなってしまいました。
 
でもセルジュは恥だなんて思いませんでした。
 
ジルベールが愛おしい────
 
はっきりと熱い思いがセルジュの中に込み上げてきたのです。
 
 
 

でも、何の為に?
 
ジルベールは精一杯意地を張って必死の演技をしている。
 
セルジュにはそうとしか思えなかったんです。