風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その34 第六章陽炎⑥

セルジュは院長先生から、オーギュストがセルジュの為に友人の音楽院教授をパリから連れてきていると聞かされます。
 
 

演奏会・・・そんな突然!
 
 
 
急に言われたって困るよね。
 
戸惑うセルジュに院長先生は、君の将来にとって幸運な事だとか、父上の名誉回復(アスランが貴族を捨て娼婦と駆け落ちした事を言ってる)になるとか矢継ぎ早に言ってくるのよ。
 
それをオーギュストが「まあまあまあまあ院長センセ」と取り成してくる。
 
そんな風に言ったら緊張しちゃいますよ。
彼はこのチャンスを逃すような事はしない私が保証します。
 
 
 
いつの間にかオーギュストのテンポでまんまと思う壺にはまってゆく流れ。
 
 
 
 
 
 
 
ジルベールは何を考えているのだろう?
 
無表情の下に隠されてわかりません。
 
でもその指先はかすかに震えています。
 
 
 
「演奏会は明日の午後三時
 
急!!!
 
 
 
 
ウイ、オーギュ
 
 
 
 
セルジュにだって都合ってもんがあるのよ。勝手に決めんな!
 
と思ってしまいますが、音楽を志す若者にとっては夢のようないい話なのかも知れない。
 
 
 
しかしセルジュには懸念がありました。
 
左の腕を・・・美少年愛好クラブなんてアホの集まりに関わったせいで腕を痛めていたのです。
 
 
 
 
腕が痛いんだって!
 
 
 
部屋を出た途端にジルベールは、抑えていた感情が溢れ出すようにセルジュにつかみかかります。
 
 
よさないかジルベール、やめろ!
 
廊下でもみ合う二人。
 
こっちを向け卑怯者!盗人!騒ぎたければ騒げよ!
 
と、セルジュの痛い腕をつかみながら無理矢理キスしてくるジルベール。
 
 
ジルベールの怒りを受け止めてセルジュは抵抗しませんでした。
 
結構なディープキスよ。
 
ちょっと血も出ちった。
 
 
激しくキスをした後ジルベールは走り去ります。
 
セルジュはその後ろ姿を見つめながら自分の頬が濡れている事に気付きます。
 
それはジルベールの涙でした。
 
 
 
 
 
朝っぱらからC棟の寮に響き渡るピアノの名演奏
 
 
 
そして翌朝になりました。
 
どんなに音の狂ったボロピアノでもなんとか弾きこなすセルジュ。
 
左腕の不安を払拭したいセルジュはとにかくピアノを練習したいから皆の迷惑も省みず娯楽室のピアノを弾いてみます。
 
パスカルやセバスチャンがやって来て演奏を褒めるけど、どうもセルジュの顔色はすぐれません。
 
上手く弾けないんだね。
 
 
 
困った時の父の日記帳。
 
 
心落ちつけよ
心落ちつけよ
己の力及ばぬとただ思いあせる時こそ
───やさしく心落ちつけよ
 
セルジュはアスランの日記を紐解き、指でなぞるように心に刻み付けてみます。
 
 
 
 
そこへセバスチャンが息せき切って駆け込んできてセルジュに会いに女の子が来てると告げるのです。
 
───アンジェリンでした。
 
 
 
 
私知ってるの
 
 
実はアンジェリンは昨日セルジュがジルベールとキスをしている所を見ていたのです。
 
その様子を見ていた彼女は、この少女らしい勘の鋭さで全て悟ってしまったようでした。
 
残酷な経験ばかりさせられて可哀そうな気がしますが、アンジェリンは意外な事を言います。
 
わたしオーギュストさまに申し込まれるかもしれないの。
 
 
そして、今までありがとう午後のコンサート頑張ってねと言い行ってしまいます。
 
 
 
なんつーか、女の子のが大人だよねぇ。
 
アンジェリンは今でもセルジュの事が好きなんだけど、心の移ろいって言うか女の子の方が早く大人になっていくよね。
 
 
 
いよいよサロンコンサートがスタートです
 
 
 
一曲目はシューベルトの即興曲です。
 
生徒たちも窓の外から覗き込んで見守ります。
 
 
だがしかし・・・
 
セルジュはどうしても腕をかばってしまって左手が、乱れます。
 
 
 
セルジュ頑張って
 
 
セルジュの演奏がいつもと違う事にオーギュストもルーシュ教授も気付きます。
 
懸命に弾き続けようとしますが、左腕に激痛が走ったセルジュはそれ以上弾けなくなってしまうのです。
 
 
 
最後まで誠実です
 
 
セルジュは怒りの為にブルブル震えそうなルーシュ教授に呼ばれます。
 
辺りはざわめき、リザベート叔母は赤面し、オーギュストは軽くため息をついて思案顔になります。
 
次に違う生徒が演奏しますが彼は上手く弾きました。
 
ルーシュ教授は思ってもみない展開に顔を覆う。
 
 
ルーシュ教授は目の前のセルジュにかつてのアスランの姿を見る
 
 
結核で学校を休学したアスランが療養先のチロルから戻ってきた時、ルーシュ教授は自分の息子が帰って来たように喜んでくれました。
 
でも結核は再発する病です。
 
以前のようなわけにいかずピアニストへの夢はあきらめざるを得なかったアスラン。
 
 
 
ルーシュ教授にとっては逸材だったんですよね。
 
才能だけでなくアスランの人柄も愛していたんだと思います。
 
ちょっとおじいちゃんだから涙もろくなってるのよ。
 
でもそんな教授を見るとセルジュはもらい泣きしそうになり涙を隠して退出します。
 
つい、言い訳が口をついて出そうになるから早く逃げ出したかったのです。
 
 
 
 
 
セルジュの後をオーギュストが追います。
 
涙をこらえて立ち去ったセルジュがウブで可愛いと心で思いながら。
 
ジルベールも可愛いし。
 
部屋を出て行く時ロスマリネがこちらを見ている事に気付き「あれもウブな男だ」とオーギュストは秘かに微笑むのです。
 
よりどりみどりじゃん。
 
 
 
でもそういう事じゃないのよ。
 
吉田秋生の「バナナフィッシュ」の中で、アッシュがショーターにこう語る場面があります。
 
そこは少年刑務所でアッシュは美形だからその手の人から狙われて大変なんです。
 
心配しながらも男ばっかりだからしょうがないと言うショーターにアッシュはそれは違うと言います。
 
「奴らがレイプするのは女に飢えてるからじゃない」
 
「痛めつけ、自分の力を誇示し服従させる為だ」
 
 
 
オーギュストが少年たちにやっている事はまさしくそれで、ジルベールもロスマリネも自分の性欲を満たす為ではなく自分の力を誇示し服従させる為に性行為を持つわけです。
 
 
そしてセルジュも・・・・・・・・
 
 
 
あれ、性欲??
 
 
セルジュを脱がせて腕の傷を確認するオーギュスト。
 
こんな事であなたの期待を裏切ってすみませんとセルジュは謝ります。
 
オーギュストはケンカかと思い相手の名を訪ねようとします。
 
その時、誰もいないと思った部屋の中で「フフ、リンチだよ」と声がするのです。
 
 
 
ふふ、リンチだよ
 
 
ジルベールでした。
 
オーギュストに出席するように言われてたのに、ここで寝ていたらしいです。
 
オーギュストは嘲笑うかのように
 
お前のような不良には彼の正当さがまぶしくてまともに見られないというわけか?
 
と言い、ジルベールは負けずに応酬します。
 
 
そういうあんたはどうなんだい?まるで天使に惚れた魔王のようにセルジュを甘やかしてさ!あとで煮て食うつもりなの?
 
 
 
怒ってガクガクしちゃう
 
 
セルジュは慌ててオーギュストを止めます。
 
その時隣室から拍手が巻き起こり、他の生徒が称賛されているのでした。
 
オーギュストはジルベールを離すと「あいさつもそこそこにルーシュ教授がやって来るよ」と言うと、その言葉通り教授は部屋に駆け込んできてセルジュを平手打ちします。
 
教授~血圧が~
 
セルジュの腕を見ると「その腕でピアノを弾いたのかなんという無茶を」とまた手を上げようとするので、オーギュストは叱るより医者に診せる方が先だと遮ります。
 
オーギュストが連れて来た音楽院の人たちにルーシュ教授は謝罪しますが、彼らはマルセイユの居城に行くついでに立ち寄っただけだからと最初からまともに相手にしてないみたいでした。
 
 
 
セルジュはオーギュストに連れられ医者へ行きました。
 
馬車の中で「くやしいかね」とオーギュストが聞きます。
 
「ええ」
 
でもどう考えても起こってしまった事は仕方ない。
 
 


 
ジルベールの嫉妬をあおるかのように、セルジュに近づき親切にしてくるオーギュスト。


最初は興味本意だったのに、接するに連れてセルジュの持つ魅力的な部分に気付いていくようです。

それが何を意味するのか。

そして、なぜそんなにもジルベールを苦しめるのか。