風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その38 第六章陽炎⑩

 

 

夏休みが始まり生徒たちが帰宅していく中で、それぞれ事情があって家に帰れないセルジュとジルベールは寮で二人きりとなった。
 
 
 
誰もいない学校で静かに深まっていく二人の愛・・・
 
 
 
 
 
 
思えばジルベールと同室となったばかりにセルジュはジルベールに振り回されてばかりでした。

成績は下がるし怪我したり殺されそうになったり満身創痍です。

それでもジルベールから離れられないのは恋という一言では片づけられない何かがセルジュにあるのです。

そしてジルベールはと言えばオーギュストからの支配が解けたわけではありませぬ。

ただジルベールの中でセルジュの存在がとても大きなものに変わってきたようです。



大人からの性的虐待に耐え続ける子供がその呪縛から解放されるのは好きな人ができた時だと聞きます。

つまり現代風な言葉で「毒親」ともいえるオーギュストからサバイブする為のキーパーソンにセルジュがなれるのか!?

が、重要だと思うんですが・・・

まあ無粋な言い方はやめにして


少しづつ心を通わせ合っていく二人尊い♡
 
 
 



さて、セルジュはジルベールを戸外へと連れ出しまして、青空の下で食べるランチ。

丘を登ってくるだけで息切れするジルベールに、なんだい情けないなあ日頃の鍛錬が足りないよとセルジュは笑います。
 
 
モグラ⁈
 

ぼくが庭でうたた寝してたその下をトンネルを掘っていった・・・
 
生き物の感触にびっくりして目が覚めた
(すごい経験だ)

それから色んな動物を飼ったよ

イタチや野バト、ネズミ、ヘビ、狐もね・・・みんな・・死んだけど
(そうだったね~オーギュストからもう生き物は飼うなと言われたんだよね)
 



ジルベールの話はとりとめもない。

だがかつてこんなにジルベールが素直に話してくれた事があったろうか。
 




陽炎というのはなんだかむなしい

見ていると周りの風景まで溶けてしまう

誰でもぼくのそばへきていいのに
───誰もこない

風さえ遠くで吹いていて・・・



 
ジルベールは思い出します。


追憶の中のオーギュストは若く美しく憂いを帯びた表情です。


 

ジルベールを現実に引き戻すかのようなセルジュ。



なんつーか、セルジュっていわゆる「鈍感力」が高い人なんですよね。

メンタルがタフネスで嫌な事があってもすぐ切り替えて引きずらないですよね。

それにあるがままを受け入れる事ができるし、他人は変えられないって事を理解しています。

だから深刻に捉えすぎずにジルベールの良い面を探そうとするんですよ。
 
セルジュが持つ何気ない優しさにジルベールの心は安らぎます。
 
 
 


風が鳴ってる

───ぼくたちの間で・・・

短い丈の草の先で




 
ジルベール・・・・!
 
 
 


なんもいえねぇ
 
 
さて、ワッツの所にルイ・レネがやって来ます。
 

 
 
ルイ・レネは夏季休暇で家族とパリに帰るとワッツに挨拶へ寄ったのでした。 

沢山の本に囲まれた乱雑な部屋で、そいつはいいきみんところは両親がご健在だからな奥さんと娘さんによろしく!とワッツは快活に笑います。


・・・相変わらずだなきみは学生気分が全然抜けん
ぼくはすっかり年を食ったというのに
 


懐かしいものをみるようにルイ・レネは言いました。
 


ルイ・レネとワッツとアスランと、三人で過ごした若き日々。



ルイ・レネはプロの音楽家を目指してたけど夢を諦め今は母校の音楽教師。

ワッツは戦争で足が不自由になったうえに今は舎監だ。

そしてアスランはもういません。
 

でも昔と変わらないワッツの明るさにルイ・レネはつい感慨にとらわれてしまうのでした。
おれも年を取ったぜ
 
 
 
そこへ眩いほどの若いもんが飛び込んで来ます。
 
 
 
やっぱワッツほどは気軽に話せないの
 


もう長い事きみは家へ帰らないそうだね・・・いけないよ
 
ルイ・レネはそう言って帰っていきました。
 
当たり前の事を当たり前に言ったなーとワッツが変に感心します。
 
セルジュは、でも本当の事ですと素直に受け止めています。
 
ワッツは思います。
 
アスランはそういう所をルイ・レネから学んだのだ
そしてぼくからは人情を


 
二人がそれぞれアスランに与えた影響は計り知れません。

そして今はそのアスランの遺児が同じ学院にやって来て、オジサン二人を切ない気持ちにさせているんでしょうな。
 


まあルイ・レネはちょっと堅いんだけどワッツは昔から軽はずみなとこがありましたよね。
 
ジルベールはほんとに何も知らないから色んな事をさせてみたいんです、なんて言うセルジュの言葉を真に受けていたわけです。
 
 
 
 
二人は馬を駆り遠乗りに出かけます。 



 
セルジュ、もっとゆっくり・・・息が切れるよ 

甘えるかのようなジルベール。

ダメダメ置いていくよいくじなしは

セルジュ甘やかしません。

へそを曲げたジルベールがプイっと横を向いてしまいます。

当惑するセルジュにジルベールは「・・・フ、心配症」とニヤリとするのでした。
 

( ̄ー ̄)ニヤリ
もおこいつう  

 
 
一緒にいるのが奇跡のようだ
 
きみはだれにも
 
つかまらぬ蝶だったのに
 
 
ラコンブラード学院は南仏のアルルの山奥にありますので、自然が一杯の美しい風景の中で心通わせていく二人の描写がたまらんよ。

ジルベールは突然キスしてきてセルジュを驚かし、セルジュは「だから誤解されるんだ!」と悪ふざけするなとジルベールの尻をひっぱたきます。
(セルジュやりすぎだよー)

そして案の定顔がこわばるジルベールを見てやり過ぎてしまったと謝るのでした。 


ジルベールは誰にどんな風に誤解されるって?とからんで来ます。

誤解じゃないかもよっていつもの挑発的な顔になる。 

でもセルジュはキッパリと違う誤解だと言ってくれるのでした。

みんなきみの事を誤解してる・・・
 

 


 
まるでスポットライトに照らし出されたように、深い静かな森に木漏れ日が差します。
 
 
 
緑の中に溶け込んでしまうように二人は口ずける────
 
 
 
   
 
セルジュもジルベールも男の子だもの。
 
 川で魚を釣ったり火をおこして魚を焼いたり野趣あふれる遊びを満喫するのでした。
 
 

 
二人は遠慮なく言い合えるような関係になっていきます。
 
 
ジルベールが捨てたものだろうか。

ワッツは川で学院の制服の赤いタイを拾います。
 
 
 
 
 

そのタイを見ているうちにワッツはアスランと過ごした青春を思い出すのでした。
 


ワッツが秘かに思いを寄せていたアスランの小間使いだったリデル嬢。

彼女はアスランが駆け落ちした後、郷里へ帰って行ったといいます。 

おとなしい女性でしたが、今では5人の子持ちだそうな。
 


ワッツは森の中で荷車に乗せてもらっているセルジュとジルベールを目撃します。
 
 
 


二人はふざけ合っていたけど、お互いを見つめ合う視線に何か不穏なものを感じてワッツは思わず身を隠してしまいます。

ワッツはかつて自分の前からいなくなったアスランとパイヴァの姿が浮かんでしまうのでした。
 
 
セルジュ、ジルベール、きみたちはまさか・・・・