風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その43 第六章陽炎⑮

よう、セルジュ・バトゥール
おまえに話があるんだ
 

 
部屋替えは月末までお互いよく考えてみよう、とワッツ先生は言ってたけど、ジルベールと同部屋になる事はあくまで拒絶する奴らでした。
 
セルジュだって、こんな奴らとジルベールがうまくやれるとは思っていません。
 
彼は言いたい事だけ言うと「話はついたぜ。せいぜい二人でいちゃつけよ」と唾を吐き捨てて行ってしまう。
 
「ブタヤロー!」という捨て台詞まで残して。
 
侮辱されてもセルジュは怯みませんでした。
 
何があっても自分だけは、せめてジルベールと同じ所にいてやるんだと、強く決意してたからです。
 
ジルベールもまた、セルジュの側を離れませんでした。

だがどーも、二人の間には温度差があるように見えるんである。



 
その頃パスカルの所へ妹のパットから手紙が届いていました。
 
手紙は今度の面会日に行くわよって内容だけど、セルジュが目当てな事はパスカルにもわかりました。
 
パスカルはセルジュの部屋へ行くと、驚いた事に昼間でもドアを開けっ放しにしてるので、ハンストならともかくドアストなんて聞いた事ないぜと言ってやります。
 
ジルベールとの関係を疑うワッツの態度に腹を立てたセルジュは、やましい事なんか何もないからそんなに疑うなら夜もドアを開けて寝るわい!!と、馬鹿な意地を張っていたのです。
 
でもそれじゃ眠れないとジルベールとは毎晩ケンカになるらしい。
 
パスカルはあきれ顔になります。
 
 
 
セルジュも馬鹿な事だとはわかってる。
 
でも最近のセルジュは本当に精神的に追いつめられていて、自分の事で精一杯でイライラしていました。
 
パスカルは、まさか夏休みに何かあったのだろうかと疑います。
 


何かあったのは、ジルベールとじゃないのよ。
けどそんな事を人に打ち明けたりはできないよね。
 


パスカルは話題を変えて女の子とつきあってみないかと言い出します。

たとえばパットとか・・・ 

それを聞いたセルジュは真っ赤になって、今はとてもそれどころじゃないんだとパスカルを追っ払います。
 

 
 
セルジュのピアノを聴くジルベール。



 
ピアノを弾いている時のセルジュは、何もかも忘れて心をニュートラルに保ちいつものセルジュに戻れる。

ジルベールはきっとセルジュのピアノが好きなんだよね。





───ジルベール、もっと聴くかい?


ジルベールは面会日の騒々しささえ消してくれればなんだっていいよ、と答えます。

今日は面会日です。

でも二人に会いに来てくれる家族はいません。




ところが、セルジュがピアノを弾く手を突然止めたかと思うと顔を紅くして立ち上がったので、ジルベールはびっくりします。
 
 
 
パスカルに連れられパットがやって来たのです。

クリスマス休暇にパスカルに自宅に招待されてパットに出会ったセルジュですが、彼女は自分のヌードをこっそり描くような変わった女の子でした。

あの頃、自分は全然キレイじゃないとコンプレックスの塊だったパットに自信を持たせてくれたのがセルジュで、その時のいきさつは今も二人だけの秘密になっているはずです。

すっかり美しくなった彼女の様子にセルジュの胸は騒ぎ、パスカルは二人に気を利かせて席をはずします。

ジルベールが一緒だったけど、パットならうまくやるさ。この先セルジュとつきあう気ならいずれは起こる事態なんだ。
そう思いながら。






セルジュはパットに学校を案内してやるからジルベールも一緒にと、誘います。

でもジルベールは何も言わず部屋を出ていってしまいます。

セルジュはその後ろ姿に「食堂で会おう。必ずおいでよ」と声をかけました。



 
面会に来た親たちで賑わう校内を、ジルベールは一人で通り抜けて行きます。

まるで自分で自分を抱きしめるようにして、ジルベールは立ち止まってみます。

パスカルの妹?

違う。

あの女の子はセルジュに会いに来たのだ。


(それにしてもセルジュめ、うれしそうにしおってからに)


 
ジルベールはなんとまあ、ブロウが婚約者の娘といちゃついてる所へ出くわしてしまいます。

ブロウは見せつけるように、ジルベールの前でキスして見せます。

この娘も下品でブロウにはお似合いである。

だがジルベールには、キスしている二人の姿がセルジュとパットに見えてくるのであります。

ジルベールはブロウの向こう脛を思い切り蹴飛ばして逃げる。
(弁慶の泣き所ね)





パットの明るさ清らかさにセルジュの心は癒されます。



でも、ジルベールは一人で何を考えてるだろう?
と、セルジュはジルベールに思いを馳せてしまうのでした。

その様子を見ていたパットは、さっきの男の子の事を考えてるのね、と言い当ててしまいます。



あの子、悲しそうな目をしてたわ。
今にも泣き出しそうだった、なぜかしら?



それはきっと恋する女の直感である。

セルジュはそれを聞いてドキッとしてしまう。

様子を見に行ってあげましょうと言って、パットはジルベールを一緒に探してくれたのです。



パットはかつて自分に対するセルジュの態度があまりにも紳士で、あまりにも誠実だったために、好きと言うよりも敬愛していたのです。

しかし今度はセルジュが、パットのおおらかで寛容な所を好きだと思うのです。

それはもちろん友人としてだと思うけど、う~ん。



 
ジルベールが見つからないので、セルジュは寮を見てくるからとパットを待たせて行ってしまいます。

パットの中ではジルベールがそんなに大事なんだと軽い失望があるのですが、聡明な彼女はそういう事は顔には出しません。

しかし一人になると、どこからか漂ってくる金木犀の香りに気づくのです。

ジルベールでした。



 
探しても見つからなかったのはどうやら二人の後をコッソリつけていて、しかもパットは感ずいていたと言うのです。

ジルベールは逃げようとしますが、パットは逃がしゃしません。



パットは竹宮作品によく登場する典型的な気の強い女性キャラで、たとえばセルジュが好きだと堂々と言うので、ジルベールから女のくせに人前でそんな事言うなんてどうかしてると言われてしまいます。

しかし彼女は悪びれもせず、女だから告白してはいけない道理などないと言ってのけるのです。

ジルベールはパットがセルジュのこんな所が好きだとあれこれ長所を言うのを聞いて、自分はセルジュの長所など知らない事に気づきます。

また泣いている女の子にためらわずに手を差し伸べる勇気があると言われ、自分を抱きしめる事さえできないのに、と思うのです。

パットが言う事は正論なのですが、どれもがジルベールにとっては、そうじゃないと思う事ばかりなのです。




二人が対峙してる間も何も知らないセルジュはジルベールを探し、途中でクルトからセルジュ宛の手紙が紛れていたと渡されます。

ようやくパットの所へ戻ったセルジュはジルベールがいて、しかも自分が探してるのを知ってて出てこなかったと聞いて彼を責めます。


 
ジルベールは、食堂で会おうと言ったじゃない?
と言うのです。

そつか
だからそれまでセルジュの後をつけて側にいたんだのお
たったこれだけの時間も一人でいられないなんて、とセルジュは驚愕してしまうのです。


 
ジルベールが無茶苦茶に走ってくるから、セバスチャンとぶつかってしまう。

ジルベールの目には涙が。

最近泣いてばかりだのお。

セバスチャンは生意気だからジルベールにもズケズケ言う。

そしてセルジュに憧れてるから、ジルベールを追いかけてきたセルジュに母が持っていけと言うので、と新聞紙に包んだ砂糖菓子をくれるのです。

セルジュはその菓子をジルベールに持たせて、部屋へ戻っておいでよ、と言います。

今日は悪かったよ、ごめん。



 
ジルベールは孤独でした。

マルセイユに帰りたい。

でも、帰ったらオーギュに支配されるだけだ。

身も心も溺れて二度と自分を取り戻せなくなる。



子どもの頃と違って今はジルベールにもわかっていました。

オーギュストとの生活はジルベール自身を狂わせるものだと。



 
それはセルジュがジルベールに悟らせたのです。

だが、セルジュは・・・




ジルベールの心は揺れていました。


 

その時、ジルベールの目に飛びこんできたのは、砂糖菓子を包んだ新聞紙に掲載されたオーギュスト・ボウの名でした。


 

セルジュはオーギュストとアンジェリンが婚約した事を知りました。