前回はジュールがいい仕事したので、あんなに恐ろしかったアダムの影は跡形もなく消えてしまいました。
皮肉にもあの一件のせいでジルベールはセルジュの友人たちと打ち解け、セルジュ以外の人とも大体フツーに話せるようになりましたのよ。
ジルベールはいつの間にか自分の周りに張り巡らした垣根を取っ払っていて、この垣根ときたらイバラか氷壁で出来てるんじゃないかっつーほどに頑なだったけど、自然にセルジュの友人グループに馴染めるようになったのね。
ところでこのグループって監督生のカールを筆頭に、留年してて年上のパスカル兄貴やみんなの人気者セルジュがいるし、クラスにヒエラルキーがあればかなりイケてる一軍でしょうねぇ。
しかもあのジルベールがお仲間入りって、華やかですのお。
けどカールとセルジュの間には以前から微妙な空気が流れております。
二人はジルベールの事がなければ親友になりえたと思うのに、ジルベールを巡って齟齬が生じてました。
カールは社会の規範や道徳を重んじる保守的なタイプだから自分の価値観が破壊されるようでジルベールに尻込みしてしまったけど、何の躊躇もなくジルベールに身を挺すセルジュに、なんか置いてきぼりされたような寂しさと強い憧憬を感じてるのです。
そんなカールの複雑な気持ち、恐らくパスカルだけが気づいてるんだと思いますが、セルジュは気づかず自分やジルベールはカールに嫌われてるんじゃなかろうかと内心思ってる。
なんかお互いに遠慮があって酒が入らないと本音も言えないみたいな仲なんですよね。
二人のいる部屋へジルベールが入ってくると、セルジュはもうカールの事など眼中にないように彼に駆け寄り、しかもどさくさに紛れてチューするっていう。
つい視界に入ってきちゃったけど、目のやり場に困るってヤツね。
すると弟のセバスチャンが「見た?今の?」って聞いてくるのよ。
兄の狼狽をよそに「いいじゃない。きれいだったよ」と言うのです。
セバスチャン腐男子か。
そして「兄さんも素直に認めればいいのに。セルジュに恋してるってさ」と言い残し走り去るというね。
カールの複雑な思いに気づいてる人がここにもいたか。
成長著しいセバスチャンです。
一方、ジルベールはアダムを操ってたのはオーギュだと知ってますから安心はできずビクビクしながら日を送っていました。
そこへ校長が叔父上から手紙が届いてるから話があると校長室へ呼び出してきます。
オーギュストの手紙にはセルジュとの不道徳な関係を理由にジルベールを退学させると書いてありました。
ジルベールはそれを読んで大胆不敵に笑い出します。
そして迫ってくるエロ校長に泣きながらこう言うのです。
今まで僕が好きこのんでおまえたちに抱かれてたと思うのか!?
言ってやる腐った学院の腐った院長!
僕には今まで翼がなかったんだ
だから言いなりになってやった!
でも今は生えてる!
───あとは飛んで
逃げるだけ───!
これはもうジルベールの魂の叫び。
そして翼をくれたのはセルジュだ。
しかしセルジュの所にも叔母から二人の関係を厳しく非難する手紙が届いていました。
セルジュが帰ってしまうんじゃないかとジルベールは感情的になります。
誰が何と言おうとどこへも行かないからとセルジュはジルベールを慰めます。
二人はもう毎晩ひとつのベッドで抱き合って眠る仲でして、お互いになくてはならぬ唯一無二の存在となっていました。
セルジュはジルベールをまるで自分の半身のようだと感じるのです。
でも、でもね
二人のそういう切なく純粋な思いは大人には関係ないのです。
それぞれの勝手な思惑で二人を引き裂こうと刻一刻と近づいてくる。
オーギュついに・・・キタ
オーギュストはジルベールにおまえを退学させると告げます。
オーギュストが開けた窓から風が入り込みカーテンがひらめいて優美な後ろ姿が描かれますが、ジルベールは決してそちらを見ようとしません。
(手にはセルジュがくれた十字架をぎゅっと握りしめてる)
その毅然とした態度にオーギュストは、あれだけ自分を求めていたはずのジルベールの心が離れてしまったのを感じたのでしょう。
話しかける事さえなんだか虚しく、それでも一応おまえを連れて帰るとかおまえはセルジュとはそぐわないとか言ってみる。
しかしジルベールはハッキリと、もう帰らないと言い「アデュー」と別れの言葉さえ告げるのです。
だから、思わず
言ってしまう。
オーギュストは相手を傷つけるような怖い愛し方しかできない人。
「おまえは不義の子だ。わたし以外に親と名乗る者はない」
と、言ってはならない真実をジルベールに突きつけます。
でもジルベールの反応は冷ややかで「だから僕を好きにする権利があるというわけ?」と、なんとも冷静です。
これはオーギュ分が悪いわ
もーこの言葉にオーギュストは愕然として全くもって返す言葉もありません。
二人は見つめ合ったままでしばし沈黙が流れますが、ジルベールは突然「汚い!」と叫びます。
もう二度とあなたとは一緒に行かないと叫んでジルベールは部屋を飛び出します。
後ろから声をかけるオーギュストの言葉も虚しいだけだのお。
えっ、親だと?何を今さら?とオーギュを責めないでやって。
血のつながりなんてなんとも思ってなかったはずの彼自身が、我ながら馬鹿な事を言ったものだと苦笑し、弱気か!って自分でツッコミ入れてたから。
まるでセルジュみたいに毅然とした態度をとるジルベールに対して弱気になってしまったのか。
ジルベールを失いそうで弱気になってしまったのか。
いずれにしてもオーギュストはセルジュを恨むでしょう。
しかし深刻なのは思いもかけない事実を突きつけられたジルベールです。
思えばまだ幼い頃、母親だというアンヌ・マリーの自分への冷酷な態度。
憎悪に満ちた目で側へ寄るなと平手打ちされた事がありました。
不義の子という事は、自分はあの女とオーギュストの間に生まれたのだ。
そして自分は父親であるオーギュストに・・・
全てに合点がいったジルベールはなんだかおかしくて大きな声で笑ってしまいました。
笑うより仕方なかったのかもしれません。
でも決して絶望していないのは、きっとセルジュがいるからです。
ジュールが生徒総監を受けたと知って、ロスマリネはショックを隠せません。
ロスマリネは名字で名前はアリオーナですよ~
ジュールは家が没落した貴族で幼い時にロスマリネ家に引き取られ二人は一緒に育ちました。
本編の3年後を描いた風と木の詩の番外編「幸福の鳩」を読むと、これはもう絵柄も変わってしまって多分に読者サービス的な作品ですが、ジュールがどれだけアリオーナを憎んでいたか、どれだけ愛していたかがわかります。
ジュールはまるでロスマリネへの積年の恨みを果たしたとばかりに喜んでるように見えますが、自分の身の処し方を考える時にまず金ありきというのは不幸な生き方だと思いますけどね。
なによりロスマリネに執着しすぎ!
どんだけ好きなんだい!
ロスマリネとジュールの長い蜜月が終わりました。