三階の窓から身を投げたジルベールは、ボナールが危険を覚悟で受け止めたのと、下に枯れ葉の山があった幸運でなんとか命をとりとめはしました。
しかしながらジルベールはショック症状で意識を失ったまま戻らず、ボナールも怪我を負ってしまったのです。
ボナールはジルベールが飛び降り自殺をした原因は、オーギュストに違いないと確信し、このまま放ってはおけないと思いました。
オーギュストは、いったいどういう育て方をしたのか?!
オーギュストへの怒りとジルベールへの愛がボナールを駆り立てます。
なんとしてもオーギュストから引き離して、ジルベールを自由にしてやりたいと考えたのです。
二人に対決の時が訪れる
ジルベールが飛び降り自殺しようとした事を聞かされたオーギュストは、狼狽します。
おまえのせいだとボナールから責められますが、そんな事よりもジルベールの怪我の状態を知りたいオーギュストは「聞く権利くらいあるだろう。わたしは叔父だ」と言いますが・・・
隠されていたものを暴くボナール
父親だと自覚しながら自分の息子を愛した。
おそらくは何度も何度も。
慣れきって忘れられなくなるまで。
うーん、字面にするとすごいショッキングですねえ。
ボナールがオーギュストを糾弾するこの場面は、今まで秘密裏に行われていた事が白日の下に晒されて、ちょっと心が踊ります。
オッケーボナール。ナイスだよボナール。
しかしオーギュストは、たいした想像力だな、なぞと言って一笑に付してしまうのです。
この期に及んでまだしらを切るオーギュストを挑発するように、ボナールは実に的確な発言をします。
なぜジルベールをもっと大事にしてやらないのか。
なぜ少しも愛してないような振りをするのか。
それはオーギュストがジルベールに嫉妬しているからだ。
ジルベールの持っている自由はオーギュストにはないものだ。
だから嫉妬してがんじがらめに縛りつけるのだ。
ボナールは相手を怒らせようとして、ここまでぶちまけているわけですが、オーギュストは顔面蒼白になりながらも平静を保って見せます。
そして「受け取りたまえ」と白い手袋をテーブルに置くのです。
こ、これは!
決闘の申し込みです
白い手袋を拾ってオーギュストの顔をたたくボナール
「申し込むのは俺のほうだぜ」
決闘の申し込みは、白い手袋を相手の顔に投げつけるか、相手の足元に投げつけます。
相手が手袋を拾えば決闘の申し込みを受けた事になるんです。
おそらくボナールは、オーギュストを挑発して怒らせた所で、決闘を申し込むつもりだったのだと思います。
それを感じ取ったオーギュストが先に言ってしまったわけですが、挑発とわかっていてのってきたオーギュストにボナールはもっと警戒すべきだったのです。
決闘当日。
早朝4時半。
あたりは霧が巻いて雨も降りだします。
ルノーは心配で引き留めたいあまり、ボナールの腕の怪我の包帯を結び直そうとします。
ボナールはそれを遮り、自分が出かけたらすぐに馬車の用意をする事、もし8時までに帰らなかった時はジルベールを連れトレアの森の別荘へ行くように託します。
泣き出すルノーを慰めながら、ボナールはこう思っていました。
勝ち負けは問題じゃない。
ジルベールをオーギュストからもぎ取って、空に放してやるんだ────
ボナールが出かけてすぐに、やっと目を覚ましたジルベールが姿を見せ、ボナールはどこへ行ったのかとルノーに尋ねます。
ルノーは取り乱して、先生が死んだらどうしよう、なんでもっと早く目を覚まさないのかと、ジルベールに泣きながら訴えたのです。
決闘は6時。
ヴァンセンヌの森。
決闘は通常、決闘者2名の他、その決闘をジャッジする人とそれぞれの介添人の5名で行われます。
あと大勢の見物人が集まります。
フランスでは20世紀初めまで、決闘はしばしば行われ、その結果が新聞に掲載されたそうです。
武器は決闘専用拳銃と言う物があるらしいです。(同じ拳銃が二つ綺麗な飾りが施された箱に入っている)
ジルベールは屋敷を飛び出し、ルノーも後を追います。
ところが屋敷の外で、待ち構えていた何者かによって二人は手荒く馬車に連れ込まれてしまうのです。
馬車に乗っていたのは、オーギュストの執事レベックでした。
レベックはオーギュストの指示で、ジルベールを迎えに来ていたのです。
ボナール邸の裏木戸に馬車を止めて待てば、きっとジルベールは出てくる。
必ずヴァンセンヌの森まで連れてこいと。
弾は一発、背中合わせに立って十歩歩いて撃つ
ジルベールを乗せた馬車は森に着き、雨の中を決闘は始まっていました。
この決闘シーンは緊張感溢れる、作中でも1、2を争うカッコいいシーンです。
レベック、忘れるな
後ろからだ
わたしは北かあるいは東を背にして立つ
後ろから来い
絶対にわたしの前からは来るな
その時ボナールの視界に飛び込んだのは、オーギュストの後ろから来るジルベールを乗せた馬車でした。
オーギュストの策略
オーギュと叫びながらジルベールが後ろから駆けてくるから、ボナールは撃てなかったのです。
これは汚い。
ボナールは撃たれ、泣き叫ぶジルベールをオーギュストは連れ去ります。
オーギュストのもとに戻ったジルベール。
その晩二人は愛し合います。
激しく、サディスティックに。
翌朝ジルベールは、オーギュストが狂ったように自分を愛してくれたと、幸福を感じるのでした。
けれど、つかのまの夢は消えてしまいます。
ジルベールはオーギュストに伴われ、ペルーの屋敷へと連れていかれます。
今度ご両親がパリへお住みになるから、きっとぼっちゃまをお引き取りになるのね。
微笑みながら語るメイドの言葉に、オーギュストから離されるかもしれないと、ジルベールは不安で一杯になります。
ペルーはジルベールを見て思わず生つばを飲む
オーギュストからは何も説明されずに、突然会わされた両親という存在にジルベールは戸惑います。
ペルー夫妻はといえば、ジルベールの美しさに驚きを隠せません。
特に性癖がヤバいペルーは、吸い寄せられるようににじり寄り、顔をよくお見せなどという始末。
仰天したアンヌ・マリーは、あなたこっちを見て!マルスを見て!!
そんな子に手をかけないで!!と叫ばねばなりませんでした。
その小さなマルス坊やが、ママン、ママンと言ってるのを見たジルベールは、不意に幼い頃を思い出します。
母を知らないジルベールは、これがママンなのかとアンヌ・マリーに近寄りますが、いきなり平手打ちされてしまいます。
近寄らないで!この悪魔!!あなたを引き取るつもりなどないわ。
産むつもりなんかなかった!と、ヒステリックに泣き喚くのです。
オーギュストはペルーと取り引きしました。
1 ジルベールをラコンブラード学院へ入学させ、オーギュストが行動のすべてを観察指導する。
2 ジルベールの入学にあたってこの小切手の額面通り学院に寄付をする。
3 マルセイユの海の天使城をオーギュストが生きている間だけ住居として貸し与える。
それと引き換えに、オーギュストとジルベールはパリから永遠に去り、今後のペルー夫妻の幸福を絶対妨げないと約束したのです。
この寄付金というのが、かなり巨額だったらしくペルーはビックリしてました。
オーギュストは、ジルベールを守る為には学院から出さず、どこまでも閉じ込めて、自分が学院を牛耳るしかないと考えていたのです。
そして、「アデュー(さようなら)ペルー」と言いペルーに口づけます。
オーギュストは自分のトラウマと決別できたのかな。
オーギュストに髪を切れと言われても、自分はこのままが好きだと言って切らなかったジルベール。
旅立ちの朝、オーギュストに髪を切ってと頼みます。
涙も、別れの言葉もなく、二人は別れました。
その胸に去来するのは何だったのでしょうか。
ジルベールの生い立ちが明らかになった過去編はこれで終わりです。
長かった〰️
同性愛だけでなく、多様なタブーがてんこ盛りで衝撃的でした。
それでもこの作品は胸に迫るような切なさと美しさを持っています。
その美しさは、暗さを持った美しさや道徳に反しているが美しいという特徴的な物です。
これがこの時代が生んだ耽美の世界です。
こういう雰囲気の物はそれまでの少女漫画にはありませんでした。
竹宮恵子も萩尾望都も前を走る少女漫画家はいませんから、まったく斬新だったわけですよ。
なんかサブカルの歴史みたいになっちゃいましたが、次はセルジュの過去編です。
これがまたなげーんだ。