なんつーか、BLを見慣れた我々から見ると、セルジュのためらう感覚がちょっと違和感。
あんなに何度もキスしてるくせに本番はNGってわからんのお。
さて、カールのいる監督生室にやって来たセルジュです。
痛々しい姿はジルベールとの諍いでひっかかれた傷が腫れてしまったのです。
外へ出れば目立つし「飼い猫にひっかかれたんだってよ」と、聞えよがしにヒソヒソ囁かれ嘲笑されるしでセルジュはとっても不機嫌。
「ジルベールを相手に殴りあいの喧嘩をするなんて!」
と言うカールに対して、彼はこれまで上級生相手に生傷が絶えなかったじゃないかと主張するからカールは驚きあきれます。
ジルベールみたいに弱くて華奢な者と対等に殴りあうなんて事は誰も考えないと言うのです。
それなのに頭に血が上ってしまってセルジュったら・・・・
でも頑固だから自分は悪くないの一点張り。
ただ、さすがにジルベールから「きみは何もしない」と責められた事までは話せません。
話せないよね。
それでもカールは「本当にぼくが必要な時はきっと言ってくれ」って。
「脱走事件の時にぼくのところへ寄ってくれてうれしかった」って、言ってくれたのです。
そんな風に自分の事を心配してくれる友人もいるのに、なぜだろう?
何をしていても、いつも自分の心を占めているもの────
ジルベールはまた悪い遊びを始めるようになりました。
上級生たちと一緒に行くジルベールを見かけたセルジュは暗澹とした気持ちになってしまうのです。
ジルベールは自分がいなければセルジュが目の敵にされる事もないからと、もっともらしい言い訳をして授業にも出なくなってしまいました。
そうして「嫌な事を忘れに行くのさ」と言って夜毎出かけるのでした。
それは相変わらず性行為の逸脱としか思えないのですが、ジルベールは輝きを取り戻していきます。
彼とは肉体の接触や性交なくして精神の融和はないんだと改めて気づかされるのです。
一度はつかんだジルベールの心が今また離れてゆく。
行かないでと願うセルジュの切ない思いをわかっていながらジルベールはこう言います。
「だってきみはなにもしてくれないんだもの」って。
ちょっと寂しそうに。
でもねー、ジルベールは投げやりのようにも見えるけどまだ希望を捨ててないように思えます。
セルジュが自分を好きなのはわかってるから、彼がその気になるのを待ってるんじゃないかなあ。
距離を置いて去っていくように見せかけて追わせたいのじゃないかしら。
恋愛関係が安定しないからこういう駆け引きに出てしまう。
そんな気もします。
でも時代が時代だから同性愛関係に陥るって事はとても重大な事なんですよね。
オーギュストやジルベールはアンダーグラウンド臭がすごくて、なんの躊躇もなくそういうタブーを破って平然としてるけど。
まるで異世界の住人です。
セルジュのように戸惑い迷うのが普通かもしれません。
ジルベールもそれがわかってるから、セルジュに無理強いはしないで待ってるのではないでしょうか。
でもきっとその気になる。
と、自分の魅力に絶対の自信を持ってる気がします。
しかし、既に学校内ではジルベールがまた遊んでいるという噂が駆け巡っておりました。
「やっぱりそうなるよね~ジルベールだもの~」
「ジルベールが上級生といる時なんかにセルジュが出くわすと何をしてても上の空になっちゃって面白いんだぜ」
「ばかだねーあいつ!」
みんな暇だからよく見てますね。
ほんとにその通りで、フェンシングの授業中に誰かがジルベールの口真似でセルジュを呼んだので、あっという間に一本取られ怪我までしちゃったり。
こんなに腑抜けみたいになっちゃうなんて。
みんなセルジュをからかうのが面白くなってしまって、ひどいわ。
一人で医務室に向かうセルジュにジルベールの声が、遠く甘い思い出みたいに「セルジュ」と呼ぶ声がリフレインしてましたの。
セルジュの様子があまりにもおかしいと聞いて、ロスマリネまで出張ってきます。
ロスマリネは生徒総監のプライドもおっぽって心配してるのにセルジュったらまるで塩対応。
まあロスマリネが現れるとオーギュストがまた何か?って思うものね。
悶々と日を送るセルジュはある日、一人で遠乗りをしていて今は使われてない古い温室に立ち寄ります。
なんだかジルベールの声が聞こえた気がしたからです。
この温室は昔ジルベールがよく逢引きに使っていた場所でした。
驚く事に中に入って見るとブロウがいて、ジルベールはたった今逃げて行ったと言います。
そして事もなげにヤツを捕まえりゃやる事は一つじゃないかと笑うのです。
ブロウは手本でも見せるつもりなのかセルジュにキスしてきます。
実はジルベールは隠れていて一部始終を見てるのですが、なんで逃げないんだよバカ!とか思ってるわけです。
セルジュはホントにどうしちゃったのかされるがままなのでブロウは可笑しがってましたね。
やる事は一つ。
ブロウの言葉がこだまします。
(そう、やる事は一つよっ!)
それは小春日和に恵まれた外出日でした。
この日なぜかジルベールの方からセルジュを遠乗りに誘ってきます。
二人は丘の下の旧校舎まで出かけました。
旧校舎と呼ばれているのは今の校舎がお城だった頃に厩舎に使っていた場所なんだって。
鬱蒼とした木々に囲まれて朽ちた塀が残っており人気のない静かな場所でした。
ここに来るまでセルジュはずっと黙ったままでした。
何かを言ったらこわれてしまいそうで。
二人は草の上に並んで座り、セルジュはジルベールの髪に手をやりました。
もう、とめどなく溢れ出るジルベールへの思いをセルジュは隠さず彼にキスをします。
セルジュは心の中にある思いのすべてを打ち明けます。
きみはきれいだ。
それはぼくがよく知ってる。
だからたまらない。
きみが自分をかえりみずあんな男たちに身をまかせているのは!
誰にもきみを触らせたくないんだ。
それはセルジュの激しい愛の告白でした。
ジルベールは静かに「罪だよ」と聞きます。
よくわかってると、セルジュが答えます。
彼を愛する事、彼と生きる事はそういう事。
セルジュはジルベールのために、性行為と同性愛という二重の禁忌を犯そうとしているのです。
しかしたとえ社会の秩序や宗教上では禁忌であっても、二人の心の機微からすれば自然な成りゆきではないでしょうか。
愛は何より勝るのだとそう信じたい、今は。
まあ、ジルベールがリードしてうまくやった事と思います笑
この作品は現代のBLとはやはり違いますから、エロチックな場面はまったくもってイメージで描かれております。
薔薇の花のイメージね♡
しかしちょっと気になるのは、セルジュに告白されている時のジルベールの表情です。
なんでか無表情。
愛され馴れてる人間の愛されて当然という甘えがちらつくのであります。
二人が暮らす寮の部屋。
ここで色んな事がありました。
ここまで長かったのお~
ついに二人は結ばれましたよ。
セルジュは不思議に満ち足りた気持ちの中にいました。
裸で抱き合っている事がこんなにも安心するものだと初めて知ったのです。
それは性行為を経験した者だけが知る、愛する人の体の温もりを感じる事で得られる幸福感です。
だが同時に性行為にのめり込む事は恐ろしさもはらんでいます。
────その翌朝。
それはセルジュにとっても同様で、心満たされるようになった彼のピアノの豊かな旋律はルーシュ教授をうならせます。
ジルベールへの言葉にならない熱い思いが、指先からこぼれるようにセルジュの演奏は充実したものとなっていきました。
セルジュはジルベールにせがまれ、初めて自分の曲を創るのでした。
芸術家は恋をしてその思いを作品へと昇華させ永遠のものとしてきました。
ジルベールは今やセルジュのミューズとなったかのようでした。
フー(ため息)
二人が結ばれるまでを年内に書きたかったので良かった
間に合いました。
これにて陽炎の章はおしまいです。
次回からは「第七章 アニュス・デイ神の子羊」でございます。
神の子羊とはイエス・キリストを指し、その意味は人間の罪の贖いとして神はイエスに生け贄の役割を与えました。
これに結びついたカトリックのミサで歌われる讃美歌もございます。
良いお年をお過ごしくださいませ