風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その51 第七章アニュス・デイ⑤

 

 
オーギュストはジルベールの叔父ではなく実の父だった・・・!!
 
 
 
 
ジルベールからそう聞かされたセルジュは驚きと共に怒りにうち震えてしまう。
 
 
ジルベールの方は意外にも冷静で、まあ身も心も捧げ愛してきた人が父親だったんですから、予想だにしない出来事にもうなにがなんだか脳がパンクしそうで考えられなくなってしまったのかもしれません。
 
「きみの父さんとはだいぶ違うね」
なぞとションボリ呟きます。
 
 
 
父親も母親も知らずに大きくなったジルベール。
 
父さんてどんなの?何をする人?ってセルジュに聞いてきた事もありましたっけ。
 
あの時セルジュが話してくれた父さんの話とは全然違くて・・・
 
自分の父親は我が子にセックスを仕込み支配する人だった。
 
セルジュの言うように狂ってるのだろうか?
 
 
 
 
 
ジルベール、もう絶対にあの人の元へ帰っちゃいけない!
 
 
セルジュはジルベールがかわいそうで、ジルベールが怒らない分も激しく怒り、自分だったらその場で殺してやったのになんて物騒な事まで言い出します。
 
しかしジルベールはと言えば、ついにセルジュかオーギュかどちらかを選択する時が来たと考えていました。
 
 
 
別れたらもう二度と会えないだろう。
セルジュとも、オーギュとも。
 
どちらかを選べばどちらかを失う。
 
 
 
この場にきてオーギュストへの未練とは。
ジルベールの心の動きは予測不能ですな。
 
 
だけど現実に裏切られては心的外傷を抱えてるような彼が、リアルな世界を前にしてまともな決断ができるはずなどありません。
 
ジルベールはめんどくさくなって(そうとしか思えない)自分をどこかへ連れていってくれるならどっちでもいい、もう考えるのは嫌だと思ってしまいます。
 
 
 
一方、オーギュストはこうなれば無理矢理でもジルベールをマルセイユへ連れ帰る気でいました。
 
がジュールから、セルジュがジルベールを連れて駆け落ちをする可能性を示唆されます。
 
ちょっ!駆け落ちって!
 
まさかとは思うけど、セルジュの性格を考えればやりかねません。
 
 
 
ジュールはオーギュストが出発するまでの一週間セルジュを監禁した方がよいと言うのです。
 
二人は相談し、同性愛事件という建前でセルジュを詰問し(どうせセルジュはウソをつけないから)罰として監禁しようという事になります。
 
 
 
しかも早急に、もう就寝時間も過ぎているのに慌ただしく寝てる所を起こされセルジュは院長室に呼び出されます。
 
 
 
 
 
雪の降る夜でした。
 
 
 
院長室には、院長、オーギュスト、(現生徒総監の)ロスマリネ、(次期生徒総監の)ジュールが勢ぞろいでセルジュを待っていました。
 
 
オーギュスト「きみはかつてここの神父にジルベールと同衾したことを告白し、神父からジルベールとの交際を止められたはずだ。」
 
 
「そしてきみは彼を愛したわけだ。そうだね?」
 
 
 
 
(うおおロスマリネ衝撃!)
 
 
 
セルジュはジルベールは自分にとって罪を犯す価値のある相手だと堂々と言いますが、院長は「神をも恐れぬ発言だ!」と色をなします。
 
これはまったく茶番なのですが、セルジュはジュールの思惑通りにウソをつかず毅然とした態度で同性愛を認めるのです。
 
 
 
 
ジルベールは肌と肌を触れ合う以外に人を信ずる術を知らなかった。
 
そうあなたに教えられていたからだ。
 
本当に破廉恥なのは、ジルベールを飢えさせ渇えさせ見捨てておいたあなた方だ!
 
 
 
 
セルジュの懸命な言葉にその場はシーンと静まり返ってしまいます。
 
 
 
そしてロスマリネは青ざめながらもセルジュに一週間の謹慎を言い渡さねばならなくなります。
 
 
 
 
 
一週間部屋から出られず監視される位はたいした事ではないと考えるセルジュでしたが、その間ジルベールが一人になる事に気づき、ようやくオーギュストの真の狙いを察します。
 
 
セルジュは負けず「目論見はうまくいったようですね」と皮肉を言い返します。
 
 
 
「でもジルベールはもうあなたのものじゃない。
神を恐れぬ教育を施されようと人間は成長するんです!」
 
 
 
セルジュの盾突くような言葉にオーギュストは無言になりますが、何を思ってるのでしょうねぇ?
案外セルジュの真っ直ぐな物言いに心を動かされてるのかも。
 
 
 
 
だがジュールは思います。
 
若さ故の正義などは結局、役に立ちはしない。
 
揺るぎもせぬ悪の前には、どちらが正しいかは結果が決めるのだと。
 
 
 
ジュールは苦労人だから世の中をシビアな目で見ているのでしょう。
 
けどロスマリネは・・・
 
ロスマリネはオーギュストに盾突くセルジュに光明を見出しているのかもしれません。
 
部屋を飛び出しセルジュの後ろ姿を黙って見送りました。
 
 
 
 
 
謹慎第1日目が始まりました。
 
セルジュはジルベールにしっかりするように励ますと部屋を後にしました。
 
学校中に噂は瞬く間に広まって行きました。
 
しかしセルジュだけが罰せられる不公平感に生徒たちは不満を露わにします。
 
残されたジルベールはオーギュストの命令で別室に移される事になります。
 
 
 
 
 
ジュールも嫌な役目ですがオーギュストの走狗となったんだから仕方ないよね。
 
そこで何が待っているのかジルベールだけでなくジュールもわかっているはず。
 
 
 
 
 
謹慎と言っても授業だけは出るので、二人がお互いの顔を見られるのは教室だけです。
 
教室で二人はまるでロミジュリかよとからかわれ心ない言葉を浴びせられます。
 
セルジュは我慢できずに口論となりますが喧嘩上手のセルジュは相手をやり込めます。
 
でもジルベールは俯いたまま。
 
 
 
 
 
思いつめたセルジュはジルベールを一時的にどこかへ隠せないかとカールに相談します。
 
でもカールもパスカルもそんな無茶苦茶な話には当然反対です。
 
いったいジルベールを隠したとしてその後どうすると言うのか。
 
学費は?生活費は?
 
 
 
 
セルジュの危なっかしさにため息が出ちゃうカール。
 
そしてパスカルが言う事も的を得ているようにも思えます。
 
ですが、セルジュは正義感からジルベールに同情しているだけなのでしょうか。 
 
本当にそれだけなのでしょうか
 
 
 
 
すべてを捨てて愛する女性と駆け落ちした父親。
 
セルジュは今、同じ道をなぞろうとしているのだろうか。
 
こっそりと荷物を準備する一方で、ルーシュ教授にジルベールの学費を見てくれないかと相談にも行きますが断られます。
 
 
いやあルーシュ教授だってそんな事頼まれても困るよー
教授は怒ってなかったけどルイ・レネには、それは教授に学院一の後援者のコクトー家を敵に回す危険を買えと言ってる事だと、激しく怒られぶん殴られてしまう。
 
 
じゃあどうしろと言うんだ。
 
このままジルベールが連れて行かれまたオーギュストとの怠惰な生活に戻されてしまうのを指をくわえて見てろと言うのか。 
 
セルジュは悩む。
 
そこへレオがひょっこり面会にやってきます。
 
 
 
 
実はセルジュの元へはブロウまでも面会に訪れたらしい。 
 
レオは神妙な面持ちでジルベールを見捨てないでやれと言います。
 
あのジルベールをあそこまで変える者が現れるなどと誰が想像したでしょうか。
 
ジルベールの変化を実感する人ほど、二人の恋を応援したくなってしまうようです。
 
 
 
 
そしてこんな人物までもがセルジュを訪ねてきたのです。
 
 
 
まさかの生徒総監が・・・
 
 
 
ロスマリネがわざわざやって来たのはセルジュを見舞うためではなく聞きたい事があったからです。
 
それはセルジュとオーギュストとの関係。
 
総監を降ろされようとしているロスマリネは崖っぷちに立っているのも同然ですから、プライドもかなぐり捨てて「きみもオーギュストの汚れた手管の餌食になった一人か?」と聞いてきます。
 
 
 
セルジュの様子で、すべてを悟ったロスマリネは礼を言って立ち去ります。
 
これで気持ちが定まったよ。
 
この言葉の意味は後でわかります。
 
 
 
しかし、ジルベールを再び支配しようとするオーギュストは肉体関係を迫りジルベールは受け入れてしまうのです。
 
 
 
 
謹慎第3日目。
 
 
廊下で出会ったジルベールはすれ違いざまにセルジュにキスしてきました。
 
泣きながら。
 
 
 
その時のジルベールの様子が気になり、あれはなんだったんだ?会って確かめたいとセルジュは思いました。
 
けれども監視されている身ではそれもかなわず、どうしたらいいかと考えあぐねているその時でした。
 
窓をコツコツとノックする音が・・・
 
 
 
 
 
 
 
ほんとにロミオとジュリエットだねえ