風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その35 第六章陽炎⑦

 
セルジュの腕の怪我はたいした事なく2週間も安静にしてればいいそうです。
 
 
 
更新が滞りましてすまんかった。
 
前回どんな話だったか覚えてる?
 
オーギュのお膳立てでセルジュの為にサロンコンサートが開かれたのに、腕を怪我してて満足に弾けなかったんだね。
 
そんでもって控室でジルベールに腹を立てたオーギュが、肩をつかんでガクガク揺すったのでセルジュは仰天しちゃったのよ。
 
 
 
その後セルジュはオーギュストに連れられて病院に行ったのですが、ここまで自分に親切にしてくれるこの人物の事がどうにも好きになれません。
 
 
それはセルジュの正義感がそうさせるのか。
 
 
あのリザベート叔母からは父親代わりを頼まれてるとかで、それに君の父とは同じ年だし、みたいな事を言い親しみを見せるけど。
 
 
なんでか人としての温かみを感じないのだ。
 
 
それにジルベールに対する仕打ちの冷たさの意味がわからないのだ。
 
 
 
 
 
ジルベールの事を考えて無口になってしまったセルジュに、オーギュストは「彼はわたしが君にばかりかまけるので嫉妬している」と事もなげに言います。
 
 
オーギュって人はね、ほんに人の心を読むのが巧みですよね。
 
 
人の気持ちがわかるって事は相手がどう出るかが予想できるし物事を有利に進める事が出来るじゃないですか。
 
 
だからジルベールの気持ちだって手に取る様にわかってるわけですよ。
 
 
わかっていながら何もしてやらないオーギュストを、セルジュは残酷な人だと思います。
 
 
 
 
セルジュに宛てたオーギュストからの手紙を奪い取り泣きながら引き裂いたジルベールの姿が、セルジュの脳裏に浮かびます。
 
 
 
ジルベールはいつも待ち続けていた。
 
オーギュストからの手紙を・・・
 
 
 
 
セルジュは切ない気持ちでオーギュストに聞きます。
 
 
「なぜ、ぼくにはそんなによくしてくださるんです?」って。
 
 

 
 
ジルベールがわたしにただ肉親の情を求めて慕っているのならいい。
 
 
だが、違うのだ。
 
 
彼の悪癖は誰にもどうにもできはしない。
 
 
 
 
・・・そう言われてセルジュは何も言えなくなってしまいます。
 
 
確かにジルベールの行動は背景を知らない者から見れば性行為の逸脱としか見えません。
 
 
でもオーギュストが自分の事を棚に上げて「悪癖」って病気みたいに言うなって・・・
 
 
そしてセルジュもほぼほぼ原因はオーギュストなんだって気づいているんですよね。
 
 
 
 
 
 
一方、ロスマリネは何かと理由をつけてセルジュに近づいてきます。
 
 
覗き見してるの?
 
 
二人の様子があまりにも親し気なので生徒たちの噂になるほど。
 
 
今までジュール以外の人間と並び立つ事のなかったロスマリネが下級生とこんなに親しくするなんてみんなビックリです。
 
 
本当はロスマリネはセルジュにオーギュストと何を話したのかが聞きたいんです。
 
 
でもそれだけじゃなく、セルジュの持つ人間的な暖かさや何か現実的な手応えみたいなものをセルジュの中に見出してるようにも思います。
 
 
 
これってセルジュにとってはいい事なんですかね。
 
パスカルなんてロスマリネがセルジュの側に寄って来たらサーッと消えていなくなってしまいました。
 
周りから妬まれてまた厄介な事に巻き込まれたりしないかな。
 
 
 
でもセルジュは意識的無意識的かは別にしてそういうとこ無頓着ですからなんも気にしないね。
 
 
 
 
 
 
そしてこちらでも、その噂をしています。
 
「やるねえ、あの黒いの!」
 
また美少年愛好クラブか?
マックス・ブロウにもたれるジルベール
なんかジルベールがボスの女みたいでおかしいんですけど
 
 
 
「うるさい!あんなヤツのことなんか」
 
 
一時は美少年愛好クラブにリンチを受けたという噂が立って大変な騒ぎだったセルジュでしたが、これでその噂も帳消しになるなとレオンハルト・マネスが言います。
 
 
レオンハルトはセルジュの事気に入ってたもんね。
 
 
でもジルベールはセルジュの話なんて聞きたくないと不機嫌です。
 
 
ブロウが、リリアスと比べられても知らん顔のくせにセルジュだとなぜ怒るんだと言ってジルベールの胸元に手を入れて来ます。
 
 
「ぼくのからだを汚い手でかきまわすのをやめないか!」
 
 
ブタ野郎発言
 
 
いやー、いつも美しく魅力的なジルベールですが、こういう時が一層美しいよね。
 
バラも飛んでるし。
 
 
 
 
 
 
────でも今回はちょっと違う。
 
ブロウの鼻っ柱に一発くれたジルベールは、男たちを挑発するような事を言い出すんです。
 
 
 
 
自分はここから逃げるから欲しけりゃ捕まえてみろよ。
 
女も抱けない腰抜けどもが。
 
 
 
 
 
 
それを聞いた男たちは色めき立ちます。
 
 
ブロウは顔つきを変え「いいだろう・・・さあ、逃げなよ」と扇動する。
 
 
どうやらここにいるのはかなり悪い生徒たちのようで、美少年愛好クラブなんて可愛いもんです。
 
 
レオンハルトだけが「なんて無謀な事を言うんだ。ブロウを怒らせたらゲームじゃすまない」とジルベールの身を案じます。
 
 
 
 
 
 
そうして凄惨なゲームは始まり「俺は後でもかまわないぜ。最初は誰だ?」と言うブロウの言葉を皮切りに、男たちは一斉に森の中へ逃げたジルベールを追いかけるのでした。
 
 
 
 
ジルベールは捕まり、男たちに凌辱される。
 
次から次へと・・・
 
 
 
 
悲鳴をあげるくらいならなぜ挑発したんだ!
 
 
 
 
オーギュ・・・
 
 
 
この場でレオンハルトだけが完全な傍観者であり、まともでした。
 
 
最初は泣き叫んでいたジルベールがやがて自分から相手を受け入れるのを見たレオンハルトは愕然とするのでした。
 
 
 
───「狂ってる」と。
 
 
 
 
 
 
ジルベールは以前から故意にブロウを怒らせるような事を言っては暴力を受けていました。
 
 
だから少なくともブロウはレオンハルトよりはわかってるのかもしれない。
 
 
ジルベールがブロウなんかと切れないのも理由があるのかもしれません。
 
 
 
 
 
より大きな性被害の中へ自ら入り自分を痛めつける事で心の安定を図ろうとする。
 
 
そうしなければ平静を保っていられないほどジルベールは衝動的になっています。
 
 
それはオーギュストに翻弄されるジルベールの心の深い闇です。
 
 
 
 
 
オーギュ
 
オーギュが愛してくれない
 
 
 
オーギュストに肉体を通して心を支配されているジルベールは、オーギュストが自分を抱いてくれない渇きを他の相手で癒そうとしました。
 
 
 
上級生・・・
 
教師・・・
 
 
 
 
院長・・・
 
 
 
セックスに溺れ虚しさから逃れようとしてもどうにもならない。
 
誰かを感じようとしても思いが満たされない。
 
 
ぽっかりと空いた心の穴は誰にも埋める事はできませんでした。
 
 
 
 
 
ジルベールの心を占めるオーギュストの存在があまりにも大きすぎるのです。
 
オーギュストに愛され抱きとめて欲しいという欲求だけがエスカレートする。
 
 
 
 
 
まだわずかな人生に過ぎないのに抱えるドラマが悲惨すぎる。
 
そしてジルベールが痛々しすぎるー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
───授業が終わり元気よく飛び出してくる生徒たち。
 
 
ごった返す喧噪と活気に満ちた校内は、学期末試験の話題で盛り上がります。
 
 
セルジュはレオンハルトに呼び止められました。
 
 
美少年愛好クラブの一件が尾を引いてるから嫌がるセルジュに、レオンハルトはジルベールの事で話があると言うのでした。
 
 
「狂ってるぜ、あいつは」
 
 
 
 
とにかく俺は降りたよ。
かかわるのはもうごめんだ。
吐き気がする。
 
 
 
そうセルジュに告げたレオンハルト。
 
 
あの場ではレオンハルトだけがまともでした。
 
まともな人ほどこうなってしまうのかもしれません。
 
初めはジルベールの美貌や危うさに魅かれてるうちはいいけど、暗い底なし沼に堕ちて行くようなジルベールを見てはついて行けなくなり去って行くんでしょうね。
 
 
 レオンハルトの話を聞いたセルジュはどう思ったのでしょうか。
 
 
部屋へ戻ると、ジルベールは朝のまま身動きもしていないようでした。
 
 
 
 
 
 
セルジュはジルベールが呼吸してないような気がして、身体を起こしたり心臓を触ってみます。
 
 
ジルベールの心臓は確かに動いていてセルジュを安心させます。
 
 
 
 
 
 
 
その時、部屋がノックされオーギュストが面会に来たとの知らせが・・・・