第二章 青春
人里離れた山奥の名門学校ラコンブラード学院に多感な日々を過ごす少年たちのそれぞれの青春。
はじまりはじまり
さて学院に転入してきたセルジュがジルベールと同室になり運命的な出会いを果たす波乱の幕開けでしたが、セルジュはすぐに友人もでき学校の生活にも溶け込んでいきます。
しかしジルベールとの関係は思うようには行かず、セルジュが差し伸べる手はことこどくはねつけられてしまうのでした。
今日は月に一度の外出日なのです
みんな朝からソワソワしてどこへ行こうとか、何をしようとか話して楽しそうです。
なのに二人は部屋でまたもめています。
先日の談話室での事件───暖炉の中で焼いてるクリを素手で拾えよー!と言われたジルベールをかばってセルジュが火の中に手をつっこんだわけなんだけど。
ジルベールはあれはセルジュが正義感ぶってみせただけで、僕の痛みを思いやって助けに出たわけじゃないだろう!つーんですよ。
もうね、助けてあげたのに馬乗りになって首しめるというね
セルジュ受難
しかしまあジルベールは細いから力ないんでね、
セルジュもわかってますから耐えてます。
セルジュはほんとに忍耐強いですよ。
怒りもしないで、そんな事考えるなんておかしいから街へ一緒に出ようとジルベールを誘います。
しかしまたひと悶着が。
ジルベールも一緒に連れて行こうとするとカールもパスカルも嫌がるわけだ。
だけどセルジュにしてみればジルベールと同室になってくれってカールから頼まれたんだからね。
あん時ちょっと変わり者で難儀するかもしれないけど僕も協力するからさって、カール言ったよねー。
ちょっとどころじゃねーんですけどー。
結局、わかったような口きいてるけど偽善者だってセルジュを罵ってジルベールは部屋へ戻ってしまいます。
ジルベールに悪いから自分も残ろうとするけどみんなに取り成されて後ろ髪を引かれる思いで外出するセルジュ。
行き先は馬車で一時間ほどの所にある田舎町アルルです。
みんな辺鄙な山の中の学校に閉じ込められてるから羽目を外して酒場でお酒を飲んだりおおはしゃぎです。
でもセルジュは残してきたジルベールを気にして
心が沈んでしまいます。
でも、どうして彼の事がこんなに気にかかるのか・・・
ジルベールのあのかたくなさは、ひとりぼっちのせいじゃないのか?
みんなに特別視されるせいじゃないのか?
思いを巡らしながら酒場の外で風に当たっていると、道行く人の自分を見る視線にセルジュは気づきます。
なあにあの子色が黒いわね混血!?
肌の色が違うせいで幼い時から差別されてきたセルジュはジルベールの孤独がわかるような気がするのです。
今度こそつれてこよう
───今度こそ!
この自由な空の下へ・・・・
セルジュは酒場の隅にピアノを見つけ頼んで弾かせてもらいます。
セルジュにとってピアノを弾いている時だけが自分らしくいられるのです。
セルジュは酒場にいた上級生からジルベールの話を聞きます。
彼の事をもっと知りたくて───。
ジルベールが初めてこの学校に来た時は11歳でした。
彼はインドシナの方面で活躍する大商人の息子で
ちょっと有名な詩人のオーギュスト・ボウを叔父に持つという事でも騒がれました。
そのうえ、あの白い王子ロスマリネとも遠い親戚にあたり学院には父親が巨額の寄付をしている為特別扱いされました。
とにかく彼は美しかった
あの事件?
みんなが噂する「ジルベール事件」がおこったのです。
それは三年前、奇しくもこの酒場でおこりました。
大人の世界を覗き見するのに夢中でどうしてそんな事がおこってしまったのか誰にもわからないけど、C級生のジルベールがなぜかここにいて場慣れした風でブランデーを飲んでいたのです。
少年の美しさに一人の酔客が近づき声をかけます。
もう悪い予感しかしない。
こっちへ来ないか
飲ませてやるぜ
彼は払いのけようと思えばできたのに
すさまじい勢いでわめきたてた
「どけろ!」とね
それを聞いてセルジュはハッとします。
ジルベールが自分の手をとったあの時(談話室で胸をはだけてここにキスしたら出て行くよと言った時ね)きみの方から手をはなせと言うと一瞬不思議そうな表情をした事。
つまり先に手をはなすのはお前の方だってジルベールも思ってたわけだ。
セルジュが先に言っちゃった事で彼は誇りを傷つけられただろう、そしてその誇りを知っているジルベールは自分と同じなんだと確信を持つのです。
男は当然怒りジルベールを殴りそれから立て続けに彼に酒を飲ませました。
嫌がるのを無理矢理。
むごいなー
だけどこの場にいた客は皆見て見ぬ振りをしているのだ
だが話はまだ続く
なんとジルベールがフォークで突き刺したというのだ
ジルベールは誰も信じていません。
誰も助けてくれない事がわかってるから助けなど呼びません。
黙って言いなりになって反撃する機会を狙っていたのです。
このすさまじい出来事にある種の異様さを感じ取って彼から離れて行った者は少なくないのではないでしょうか。
けれどセルジュはと言えば距離を置くどころかますますジルベールへの愛しさが募ってしまいます。
僕たちは同類なんだ。
きみが僕を罠にかけようとしたって、それはきみが心を踏み荒らされまいとして懸命に張り詰めている防御壁だ。
僕は罠にかかってやるよつって、セルジュ思い込み激しすぎじゃね。
なんか吹っ切っちゃったセルジュの前にジルベールとブロウが・・・
一人残されたジルベールはブロウを誘い当て付けのようにアルルまでやって来ました。
しかもお姫様乗り。
二人の前に飛び出して来たセルジュですが何しろ置き去りにしてきちゃったんだから何も言えませぬ。
ブロウも出しに使われた事に気づきます。
怒りにまかせてビリビリに破る
あーすごい展開だー。
怪力。
そして馬は走り去る。
ジルベールのせせら笑いを残して。
セルジュは学校に帰ってジルベールにあやまらなくちゃと言い出します。
そうなるとクルトが黙ってないよー。
せっかくの外出日これからが面白いのにとクルトが怒り出してセルジュとけんかになってしまいます。
自覚がないから言ってやるよ
きみはあの汚いホモ野郎にいかれちゃってるんだ
まるで恋人を取られたみたいにすっ飛んでって
ジルベールが汚いと言われた事に怒るセルジュ
セルジュは明るくて誰にも好かれる性格ですが心の中に孤独を飼っている少年です。
幼い時に亡くなった父と母から彼はとても愛されました。
だから彼の肌の色は彼の誇りであり言われなき差別を受けようとも胸を張って生きてきました。
これまでは純粋にジルベールの美しさに魅かれていたんだと思うけど、ジルベールもまた自分と同じ孤独と誇りを持っている人間だと気づくんです。
とまどいもときめきも溢れ出す思いも
男女のそれと何ら変わらない
ジルベールともっと仲良くなりたいと思う気持ちは友情からなのか?
クルトから恋してるんじゃないか?
なんて言われムキになってケンカして。
読者からはまるわかり。
セルジュそれは恋だよー(笑)
でもセルジュまだ自覚してませんねー。