風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その9 第三章 SANCTUS 聖なるかな①


SANCTUS(サンクトゥス)とはミサ曲です。





聖なるかな 聖なるかな 聖なるかな

万軍の主なる神

主の栄光は天地に満てり

いと高きところに ホザンナ






作者はウィーン少年合唱団のファンでした。
あの天使の歌声を思いだしてみよう!



第三章 SANCTUS━聖なるかな━



はじまりはじまり拍手






パスカルの家から一足早く戻ってきたセルジュ。


学院までの道を、帰校する生徒たちを乗せた馬車が通り過ぎて行きます。


ミシェルはどうなったんでしょうね。
気になります。






カールの生意気な弟セバスチャン




セバスチャンがセルジュを見つけて、うれしそうに馬車から飛び降りて来ます。


二人で学院までの道をおしゃべりしながら歩きますが、セバスチャンの口の達者さにへどもどしちゃうセルジュ。


セバスチャンはセルジュに憧れてますから、「今夜お部屋に遊びに行っていいですか?」なんて、別れ際に言うのです。
可愛いね。






さて部屋に着くと鍵がかかっていて、ジルベールいないのかな?と思って入っていくと・・・


なんだか空気が淀んでて、服や靴があちこちに投げ捨てられてるし、ビリビリの紙きれが床に散らばってるのです。



尋常でない部屋の様子を不審に思っていると、いないのかと思っていたジルベールがベッドでボンヤリと座っていました。




ビックリするセルジュ




驚かされてちょっとムッとしたセルジュは、「どうして呼ぶのに答えないんだ?」と言いますが、ジルベールは無表情のままでなんの反応もしません。




ベッドに音もなく倒れてしまう






セルジュはジルベールの為に、食堂から夕食を部屋にもらってきてあげます。


しかしながらスープのお皿を渡すと黙って受け取る様子を見て、彼はこんなに素直だったろうか?と変に思うのです。


そう、ジルベールは明らかに様子が変でした。


お皿も満足に持っていられずに落としてしまって「火傷するからどくんだ!」と慌てるセルジュの横で、人形のようにつっ立って何も言わないのです。




ジルベールの瞳にうつるセルジュ


ふるえながら抱きついてくる



「はなれて!ジルベール!!」
思わず叫んだ次の瞬間に、セルジュの耳にはジルベールの心の叫びが聞こえたのでした。

抱いて・・・

抱いて!

抱いて!!






ところがどっこい、そこへセバスチャンがやって来ちゃったから、さあ大変。





違うんだセバスチャン!誤解しないでくれー!!



もうセバスチャンは顔面蒼白で言葉もなく走り去りましたね。


そりゃそうだよねー。


しかしセルジュにとって解せないのはジルベールです。


なんか痩せちゃって、腕とか細くなっちゃって、しがみついてる力もなくて倒れちゃう。


いったい何があったんだ、と思うわけですよ。


あの雪の日オーギュストからの手紙を受け取ってから、ろくに食事もせず、眠れなくなって、一人で耐えていたんだね、きっと。


セバスチャンが走り去りながら、腹いせにガシャーン!と荒っぽく閉めた扉の音にさえ怯えてしまうのです。


セルジュはその様子を見て、まるで暗闇で泣いていたミシェルと同じじゃないか、と思います。


そのうえジルベールは、今夜自分を抱いて一緒に寝て欲しいとセルジュに懇願するのです。



ぼくもう一人じゃ眠れないんだ。さびしいうさぎ。





だがしかし、ジルベールのあまりのメンヘラぶりに動揺するセルジュは、思わずジルベールをぶってしまいます。



なんでこんな事になったんだ!
ジルベールをこんな風にめちゃくちゃにしてしまったのはなんだ!
いったい誰なんだ?
と怒りがこみ上げてくるのでした。



「そばにいても何もできないならあっちへ行け」




ジルベールのその言葉にセルジュの決心は固まりました。





セルジュ一大決心




セルジュのこの切ない表情は何ですかね。

またもや貞操の危機を迎えてしまったセルジュ。

ただひとえにジルベールの為に、一肌脱ごうというね。

そして、ホントに脱いじゃう。




神かけて何もしないから服を脱いでとの仰せ付け


ドキドキドキドキドキドキドキドキ




この漫画は今のBLなんかとは違うのでこれ以上のエロ描写はありません。


ちょっとジルベールがセルジュの股間を触ってるかな~でもセルジュに拒否されてすぐ止めたな~
程度の描出です。


ほんとにただ一緒に寝ただけ(笑)


ともあれジルベールを信じようと腹を決め落ち着きを取り戻せば、いつもの優しいセルジュです。





安心しておやすみ━━優しい♡





ジルベールのように精神的に変調をきたしてる人と接した時、負の側面に自分も引きずられちゃったりする事があるんですが、セルジュは安定してるなー。


ジルベールも安心して眠れたみたいです。


セルジュは一緒に眠るジルベールの肌の温もりを感じて、不思議に心がなごむ気がしました。


ああ、人の肌ってなんて温かいんだろう。


なんてやさしいんだろう、って。






夜半に振り出した雨の音が二人を包む




思えばジルベールもセルジュも孤独なんだよね。


まだ14歳だもの。


この二人には甘えられる母親どころか、家族と言える者さえいないんです。




そして翌朝


ジルベール復活


いつものジルベールに戻っていました。

やれやれだね。



裸で寝てるセルジュをからかったりして




夕べはあんなにも哀れっぽくセルジュの胸にすがったくせに。

あれは何だったのー?

セルジュは苦笑してしまいます。



ホッとしたのも束の間、大事な事を思い出しました。



忘れてた!セバスチャン!!


しかしな~、言い訳するといってもなんと言えばいいのかな。

セバスチャンがあれをどう思おうと、まあいいや。

などと、考えてると当のセバスチャンが待ちかまえてました。





セルジュ、モテてるな~




セバスチャンは聡明な子だから、セルジュの説明で誤解はすぐに解けました。



でもセバスチャンによると、ジルベールは休暇の前になると必ず変な憂鬱症のような状態になると言います。


そして休暇が終わりある時期を越えるとまた元に戻る、それの繰り返しだと言うのです。


クリスマス休暇の時は特にひどくて、自殺騒ぎを起こした事もあると聞いて驚きます。



読者はその原因がわかってるけど、セルジュはまだ知りません。


本当は引き裂かれて苦しんでるのに、他人からはまるで奇妙な癖みたいに言われて痛々しいです。


それにしてもセバスチャンはほんと賢い子だな。


ジルベールとの事がどんなに皆の間で噂になったって、自分はセルジュの言葉しか信じないとハキハキ言いおった。


セバスチャンのその言葉にセルジュは勇気づけられた事でしょう。





でも、あれでよかったんだろうか?

自分はジルベールに何もしなかった。

ただ、一晩中抱きしめていた。

そんな事が、何か彼を助ける事になったんだろうか?



腑に落ちないセルジュですが、ジルベールを受け入れてやった事で彼が救われたのは紛れもない事実なのです。


ただね、こんなに情緒不安定では付き合っていくのは本当に疲れます。


そのうえセルジュとセバスチャンの会話をロスマリネが聞いていたのです。


胸がざわつきます。