前回のお話いかがでしたか?
自分から輪姦されるとわかっていて身を投げ出すジルベール、衝撃的でしたよね。
レオンハルトが「気が狂っている」と感じたのは、まともな神経を持つ者ならごく当たり前の反応に思います。
自分はジルベールが哀れになりました。
あれは自己破壊みたいな衝動なんだろうな。
オーギュストはわざとジルベールを無視してセルジュをかまい、ジルベールの心は嫉妬と怒りでずっと不安定に揺れていました。
セルジュはそれに気づいていたし、今朝汚れに汚れてベッドに丸まるように横たわるジルベールを見つけ、何があったのかも知りました。
必死に眠っているようなジルベールを見ていると、もうつらい思いはさせたくないとセルジュの胸は切なさで一杯になったのでした。
誰だってレオンハルトのように「吐き気がする」と言って目を背けてしまうのに、何があってもジルベールのすべてを受け入れようとするセルジュ。
神さまか!?
オーギュストが面会に来ているという。
これまでオーギュストの見せる好意を無にするのは罪な事のような気がして、つい彼のすすめに乗ってしまったセルジュでした。
ジルベールの為にもうこれからは断ろうと決め、オーギュストと対峙しました。
ところが、オーギュストはセルジュにパリの音楽教師を紹介しようと言って来たのです。
あんな失敗の後なのにとセルジュは耳を疑います。
パリで音楽院に入ろうとする者はみな若いうちから高名な教師の弟子になって練習に励む才能は早くから開花させるにこしたことはないパリに来たまえ!そろそろピアノの道に専念してもいいころだよ
もうねー、音楽を志す若者を魅了するようなセリフを綺羅星のごとく繰り出してくるのよ。
言葉の錬金術師。
さすがにセルジュも驚きます。でも断るんです。
自分はまだ真剣にピアノに打ち込んでるわけではないし、それよりも父のいたこの学院で青春を過ごしもっと豊かな物を自分の身に貯めたいんです、って。
音楽院へ進むかどうかはこれから決めたいんです、って。
それを聞いた学院長のヤロー「名ばかりの子爵家でその特殊な生まれをどうやってカバーするんだ。こんないい後ろ盾がこの先見つかるはずない」とか失礼な事言いやがって。
オーギュストは頑固とも取れるセルジュの態度に、なるほどこの子はちょっと毛色が違うと感じるのでした。
あれは絶対セルジュはこの話を受けるに違いないと踏んでたね。
非常に気まずい空気になってしまった中、セルジュは静かに目を閉じて思うのです。
この先はないのはわかってる
でも大切なのは情熱だ───
セルジュの情熱はどこにあるのか。
脳裏にジルベールが浮かぶ。
オーギュストがマルセイユに帰って行きます。
折り悪しく降り出した雨の中をルーシュ教授やルイ・レネと共に見送るセルジュ。
残念がるオーギュストにセルジュは「ジルベールに会いに来てあげてください」と言います。
しかしそれには答えずオーギュストの乗った馬車は去りました。
ルーシュ教授はセルジュが話しかけようとすると無言で行ってしまいます。
おじいちゃんまだ怒ってるのかー
ルイ・レネすかさず「ルーシュ教授は君がここに残ってくれた事を喜んでるんだよ」とフォロー。
ぼくも君の判断を心から喜んでいるよ。
そう言ってくれる。
うますぎる話に乗らなかったセルジュに安堵しているようでした。
────雨脚が強くなりました。
セルジュは眠っているはずのジルベールが木の陰にじぃっとしているのを見つけます。
「オーギュは!?」
「いま帰ったところだよ・・・君は眠っていたので」
それを聞くと、くるまっていた毛布を捨てジルベールは走り出しました。
セルジュはその後ろ姿に叫ぶ。
「そっちの門はだめだ!鍵がかかってる。出られない!」
追ってどうする?
何ができる?
もうやめろ!
胸が痛むほどの思いが込み上げてセルジュは後を追いかけたのです。
ジルベールは雨の中を泥濘に足を取られながら必死で走りました。
そのジルベールを阻むように鉄の門は固く閉ざされています。
オーギュ!!!!
オーギュストを乗せた馬車は疾走して行きます。
まるで、自分を冷たく拒絶するオーギュストを象徴するような門にすがり付きジルベールはその名を叫ぶのでした。
ジルベールの悲鳴に似た声をセルジュは聞きました。
悲しみに凍りついたように門の前で動かないジルベールに、冷たい雨が降り注ぎます。
その姿を見たセルジュは、かすれるような声で「帰ろう・・・」と言うしかできませんでした。
その時、セルジュの差し出す手を払いのけたかと思うとジルベールが飛びかかってきたのです。
ジルベールやめれ
どこにそんな力が、と思うほどセルジュの首を絞めるジルベールの力は強くセルジュは振りほどく事が出来ませんでした。
セルジュはハッキリとジルベールの殺意を感じました。
なぜだ?
なぜそこまで自分を狂わせるのか?
それほどまでにあの人が好きなのか?
抑えきれない感情が渦巻き半狂乱になるジルベールに、為すすすべがない混乱でセルジュはジルベールを押さえつけます。
そしてこう言うのです。
もうたくさんだ!
君と君のおじさんの間にも割り込まない!
心配もしない!
さわらない!
わかったか!
やっぱそうなっちゃうよね。
そう強く言われ、ようやく正気を取り戻したかのようにジルベールの目はセルジュに向けられるのでした。
ジルベールはその場に座り込み動かなくなりました。
セルジュはジルベールを残し立ち去りました。
振り返るなと自分に言い聞かせる。
だが未練が残った。
セルジュは再び元来た道を引き返したのです。
激しく降る雨の中でジルベールはまだ膝を抱えたまま座りこんでいるのでした。
好きだジルベール
セルジュの中に湧き上がってくるジルベールへの感情。
まるで今初めて気づいたようにセルジュはジルベールが好きだと思うのでした。
だが今初めてではない。もうずっと、ずっと前から、自分はジルベールが好きだったのだ。
セルジュはそっとジルベールに口づける。
するとジルベールの方からセルジュに手を伸ばしてくるのでした。
セルジュはジルベールを抱き起こし、二人は身を寄せ合うように帰りました。
冷たい雨に濡れそぼり泥に汚れ、寄る辺のない寂しさが漂います。
こういうメンヘラな人とつき合うのは大変骨が折れる事です。
ジルベールほどではなくてもメンヘラな人は身近にいます。
自分の友人にもいましたが、皆で盛り上がってる時に突然いなくなり探し回ると泣いてたり、大変お騒がせで面倒くさい人でした。
同性からは不評を買ってましたが、なぜか異性にはモテていました。
男性にはとても魅力的にうつるようで不思議でしたねー
さて、そんな大変な出来事があった翌日です。
セルジュはちゃんと食堂に食事しに来ていてジルベールの方はどうしたのかなー
ふとオーギュストの優雅で美しかった手の動きが頭をよぎります。
その手はジルベールの手とも似ていると思うのでした(二人とも繊細で美しい手をしてるのよ)
なんでそんな事考えてるのか。
昨日濡れたせいで風邪をひいたセルジュは、もうオーギュストの事は忘れてしまえと思うのでした。
自分にはとてもよくしてくれた。
でもあんな風にジルベールを突き放す人は信用できない。
一方、ロスマリネは風邪で咳込むセルジュをからかうクラスメートの意地悪な言葉をやり込めてくれます。
「試験が近いから大事にしたまえ」と言ってセルジュを見る目がとても優しくて「あれは慈愛の目だ」とみんなが騒ぎます。
「君はこのところ彼ばかり追いかけてるね」
(ジュールもロスマリネばかり見てるからね)
ジュールのお三時のお茶ですわ
確かにセルジュはあのオーギュスト・ボウをはねつけた少年ではある。
嬉々とした表情のロスマリネは面白くて仕方ないのでした。
しかしセルジュはそんなこっちゃ知った事じゃない。
ジルベールにあれだけ強くもう干渉しないと言ったのだから。
ジルベールはまだ暗闇の中にいました。
オーギュは行ってしまった。見捨てたんだ。いや違う。捨てた。違う。オーギュはぼくを愛している。
ジルベールは分からなくなる。
見捨てられたくない。
オーギュストとの関係がすべてのジルベールは捨てられるという不安で一杯になってしまうのでした。
一日中ベッドに潜り込み食事も取らず自分の殻に閉じこもる。
セルジュはそんなジルベールが気にかかるが、もう干渉しないと言ったんだからと関わらないようにします。
だがジルベールも咳込むようになりそれはセルジュよりもずっと具合が悪そうなのでした。
・・・・・もう!
セルジュは怒ったようにジルベールに向かい、昨日は干渉しないと言ったけどもう我慢ならん。さあ起きて一緒に食事に行くんだ!!と命令します。
だいたい同じ部屋にいるのにベッドから出てこないで咳ばかり聞かされたのではセルジュもたまらんよ。