1874年、この年ジルベールは7歳になりました。
絢爛豪華な海の天使城で、寝たい時寝て起きたい時に起き、衣服もろくに着けず動物のように自堕落に暮らしていました。
生まれてから誰にもかえりみられる事のなかったジルベールにとって、初めて出来た家族(と言えるかどうか)オーギュストは実に気まぐれな人でした。
幼い子供に必要なしつけとか教育なんて物はまったく与えなかったのです。
まあしつけとは言ってもオムツは取れてるわけだし、世話は使用人がするんだろうけどね。
ブランデーだよね?ごくごく飲んでる・・・
こんな小さい子供が強い酒飲むとか日本人はショックですよね・・・
急性アルコール中毒とか大丈夫なのでしょうか。
ラコンブラード学院の学生たちはよくワインなど飲んでましたが、お国柄もあるだろうけどこれはないよねー。
オーギュストはジルベールがお酒を飲む事や、小説や大人の本を読む事(この時代の小説は下品な物として上流階級からは軽蔑されてたそうです)
その他諸々とにかく放任で知らんぷりしているのです。
どうなってもいいと思っているようにしか見えないのですが、ジルベールは恐らく気を引きたいのでしょう。
オーギュストの気に食わない事をしては怒らせて、暴力を受けるというね、そんな繰り返しだったのです。
屋敷に響くジルベールの悲鳴
もうね、使用人たちが嫌がってどんどん辞めてくんだって。
あのおじいちゃん執事さんももう限界今日こそ言わねばって、ノックもしないでいきなり部屋に入ってみる。
真冬です
なんか花瓶の水をジャバジャバぶっかけてる。
「召し使いが2名下男が1名今月で辞めます」
って、報告か。
真面目な使用人ほど、子供をひどい目に合わせるオーギュストの姿に嫌悪感を持ち、屋敷から去って行きます。
彼らはオーギュストの事を、日曜ごと教会へも足を運ばぬ背徳者だと噂しているのです。
そういう話をいつもの無表情で聞いていたオーギュストが「では聞こう・・兄は道徳者か?」と言うと、執事は何も言えなくなってしまいます。
人の心理を読み解くのに長けているオーギュストは、相手の痛い所をつくのが上手い。
無力な子供だったオーギュストが凄惨な目に会わされていた頃、周囲の大人は誰も助けてくれませんでした。
この執事もその中の一人ですから、オーギュストは表面上はともかく今でも許せない気持ちでいるのでしょう。
折檻されても犬のようになついている
今度はパイプだよ
そのうえ、学齢期なんだからせめて家庭教師をつけてまともな教育を受けさせるべきだ、という執事の言葉にもオーギュストは首を振ります。
このままでは社会に適応できない人間になってしまうと執事が言えば、「社会なんて汚いだけだ」と二人の会話はまったく噛み合いません。
執事の心配は道理な話なんです。
ところがジルベールはこんな自堕落な生活をしているのに卑屈な所がなく、誰が教えたわけでもないのに生まれつきの品格を備えていたというんです。ほおー。
野放しにされ束縛も規律もない自由な生活の中で、自然の森や母なる海が十分に彼を成長させ、教育など受けなくてもオーギュストの知性や教養を吸収して行ったというんです。
そんなジルベールを育てた海の天使城は、マルセイユの海を見下ろす崖の上に建ってるんですが、海の反対側は鬱蒼とした森が延々と広がっています。
その広大さに、うっかり外門で馬車を降りてしまった訪問客は歩き疲れて道に迷ってしまいます。
パリの出版社からやって来たその客は霧雨の降る幻想的な古いあずまやで、彫像かと見紛う美しいジルベールと出会いました。
ジルベールは9歳になっていました。
思わず出した手を打たれる
わずか9歳にして大人を魅了してしまう美しさ。
オーギュストに会う為やって来た客は、ジルベールの美しさを大絶賛します。
パリではオーギュスト・ボウが甥っ子を寵愛しているという噂なんだって。
パリ社交界のエレガンスやダンディズムには飽き飽きしてたオーギュスト。
寵愛なんておかしくって嘲笑っちゃう。
この完璧な美を持つ少年を、いつか自分が支配してやろうと企んでいるんだからね。
ジルベールに友達はなく、野生の中で動物たちと心を通わせ次々と動物を飼いました。
ウサギが死んだら猫、犬、鳩とかネズミとか蛇とか狐。
ある秋の日、オーギュストは近所にあるサン・トリド城に招かれてキツネ狩りへ行ってしまいます。
残されたジルベールは飼っていた狐を連れ城の外へと出かけますが、そこへキツネ狩りの一団がやって来るのです。
驚いて走り出した狐を追って、突然犬の群れに飛び込んだジルベール。
飼っていた狐は殺され、ジルベールも大怪我を負います。
オーギュストは真っ青になり心配しているようでいて、ジルベールの美しい体に傷跡が残る事を案じているのです。
そして「もう生き物は飼うな」と言います。
それは心配しているようでいて、ジルベールから唯一の友達を奪っているようにも思えます。
心配しているようでいて、返事をしないジルベールに「わかったな、ジルベール」と念押してくるのです。
オーギュストは、ジルベールほど真っ直ぐに伸びた子供は他にいないと思っています。
確かに、親からの束縛もなく社会の規律も知らないジルベールの魂は自由過ぎて、感性も真っ直ぐかもしれない。
それとリンクするように容姿も完璧。
子供なのにすごい存在感。
でもとても危うさがあるよね。
この後それが段々と表面化してきます。
どこからか入り込んだ漁師町の悪ガキグループが、中門の柵の向こうからジルベールにチョッカイを出してきます。
この悪ガキはジルベールを女の子だと思っていて、いたずらに胸を触ろうというとんでもねーエロガキなんだね。
ところが男の子だったもんだから、あてがはずれた腹いせに、男のくせにとんだくわせもんだ、どーせそういう商売してんだろつって雪玉ぶつけてくるんだよ。
そこへ登場したボナール(彫刻家)
ちなみに悪ガキのせいにしてるけど、
石を投げたのはボナールだから
突然オーギュストを訪問してきたこの男は、社交界では犬猿の仲でしたからいったい何の用かと問います。
するとジルベールを売ってくれと言い出すのです。
動揺するオーギュスト
ジルベールは寂しそうに、自分がオーギュストの側に寄ると、いつの間にかスッと離れていくのだと言います。
だから怒らせる。そうでもしないと決して自分に触れようとしないから。
放任放置という愛のない行為に寂しさを感じ、なんとか大人の気を引こうとする。
悪い事をしてでも関わりを持ちたいこっちを見て欲しいから、叱られる事も誉められる事も変わりなくなってしまうんですよね。
けど普通の子供のように愛を求められても、オーギュストには受け入れられるキャパはないんですよ。
何も知らないボナールは、ジルベールがこんなに愛されたがっているのに、放棄しているような奴は非芸術的で臆病者だと決めつけます。
このボナールがとんでもない事を仕出かすのです。