風木部

溺愛「風と木の詩」

風と木の詩その17 第四章 ジルベール⑤

 
海の天使(ケルビム・デ・ラメール)城
 
1877年、ジルベール10歳
 
 
 
 

 
 
 
知る前は怖いけど知ってしまえば、なあんだって思うもの。
それは性。
 
 
すべてを知り尽くしてるジルベールにとっては、大人への恐れなど何ほどの事もありません。
 
 
 
 
純真な子供の振りをするアンファン・テリブル。
 
 
ジルベールはこの時すでに、性的な刺激に悩まされていたのです。
 
 
 
それはオーギュが冷たいから
 
 
 
わたしはおまえとは違う。他人とからだを触れあわせるなどまっぴらだ。
 
 
 
あんなに自分を愛してくれたのに、どうして抱いてくれないのか?
 
 
いくら訴えても冷たく拒絶されるばかりで、ジルベールは訳が分かりません。
 
 
オーギュストって人は、屈折し過ぎで言動が理解の範疇を超えているんですよね。
 
 
自分は義兄が嫌いだから性行為も嫌悪感を持っている。けどジルベールはオーギュが好きだから溺れてしまった。それが嫌なんだろうね。
 
 
そのうえ、愛されて幸せそうなジルベールよりも、求めても満たされなくて愛に飢えているジルベールの方が好き♡というね。
もーワケがわからん。
 
 
これは一体、虐待の延長なのか?
勘違いの愛なのか?
 
 
 
 
 
オーギュストにかまってもらえない寂しさから、ジルベールは火遊びに興じるようになってしまったのです。悪い子。
 
 
 
 
 
 
ジルベールがオーギュストの代用品にしたのは、城へやって来るオーギュストの友人や、執事がつけてくれた家庭教師でした。
次から次へと大人を誘惑しちゃう。
 
 
こんな子供が性の何たるかを知っていて、体が疼いちゃって悶々と身悶えてるなんて誰が思うよ。
 
 
ある意味レイプされるよりもっと残酷で可哀想な状況なんです。
 
 
だから大人たちはついついその気になってしまっても、この子の早熟さに脅威を感じると慌てて逃げ出してしまうのでした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
悪い遊びを覚えてしまったジルベールに付きまとう怪しげな下男
 
 
 
 
その頃、オーギュストの元にジルベールの母であるアンヌ・マリーからの手紙が届いていました。
 
 
その手紙には、仕事があって夫婦でその城へ帰らねばならなくなった。顔を会わせないのがお互いの為だから、しばらくの間ジルベールと二人でパリへ行ってくれと書いてありました。
 
 
オーギュストの苦悩は現在進行形で続いてると言うのにね、もう何も無かったかのように夫婦円満かよ。
まあ、女なんてそんなもんですよ。
 
 
 
 
オーギュ落ちこんじゃう
 
 
 
 
 
オーギュストは思いやりのない、ジルベールを平気で苦しめる冷酷な人なんですが、その無表情の下に、とても傷つきやすい心を隠し持っているように思うんです。
 
 
人というのはそういう矛盾に満ちたものです。
 
 
だからオーギュストを理解しようとする事自体、不遜な事なのかもしれません。
 
 
でもジルベールには、もうそれしかないんでしょうね。
 
 
慰めてあげる、なんつって媚びて、オーギュストを怒らせてしまいます。
 
 
 
 
 
その怒り方がまた怖いんだ
 
 
そしてとってもサディスティック。
 
 
ジルベールがオーギュストの気をひこうと媚びるのを見ると、腸わたが煮える!とかゆって。
 
 
おまえは汚れものだから二度と近寄るな!とまで言ってジルベールの心をまた傷つけてしまう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ジルベールの世界は、オーギュストがすべてなのにね。
 
 
 
 
 
 
ジルベールはひたすらオーギュストを待ち続ける。
長い夜を、たった一人で。
 
 
 
 
 
けれどオーギュストは現れやしません。
 
 
ジルベールはオーギュと名を呼んでみます。
 
 
そうして不意に何かを思い出します。
 
 
 
 
 
 
 
ママン・・・
 
 
 
 
 
それは、ジルベールがもっと幼かった昔のおぼろげな記憶。
 
 
薄汚れた毛布に裸で潜り込み、そこに包まれているといい気持ちがして安心できた。
 
 
でもジルベールにはもう、それが何だったのか思い出せないのです。
 
 
今のジルベールにはオーギュストの姿しか思い浮かばないのです。
 
 
 
 
 
 
 
ジルベールが思い出す幸せな情景
 
 
 
 
 
花咲き乱れる美しい庭園で、自分を愛してくれたオーギュストの姿ばかりが胸をよぎります。
 
 
ママンじゃ駄目なのだと、ジルベールははっきり知るのです。
 
 
 
 
泣いちゃう
 
 
その様子を鍵穴から覗いているあのキモい下男(|||´Д`)
なんか楽しそう
 
 
 
 
こいつは前々からジルベールに興味を持って、チャンスを狙っていたんだね。
 
 
 
ジルベールはその後部屋に籠ったきり、姿を見せなくなってしまいます。
 
 
オーギュストは放っとけって言う。
 
 
チャンス到来とばかり盗んでおいた合鍵を使って部屋へ侵入し、ジルベールに襲いかかります。
 
 
 
 
 
もー次から次へとこの子は
 
 
 
 
しかも、おまえは飢えている抱かれたくてウズウズしているはずだ。とか言ってくるから、なんかムカつくわ。
 
 
この襲われるシーンは結構長いんです。
 
 
ただ最初ドアが開けっ放しになっているのに、そこから逃げようとはしないんですよ。
 
 
それよりも、チェストの引き出しから護身用らしき短剣を取ろうとするんです。逃げた方が早いのに。
 
 
なんかゼッテー許さねーって気迫が感じられて、気丈っていうか、タフっていうか、凄まじいのね。
 
 
この子はもう死さえ超越してるんだな。
 
 
オーギュに抱かれたいつって悶々としてるばかりでなく、ごっつ肝が据わってますわな。
 
 
 
 
あえなく返り討ちに
 
 
 
 
執事とオーギュストが物音に慌てて駆けつけると、刺されて呻く下男を前にジルベールは平然としています。
 
 
オーギュストはもう何も言えませんでした。
 
 
ただ黙ったまま、ジルベールを見つめる事しかできなかったのです。
 
 
 
 
オーギュストは、ジルベールを連れパリへ行く決心をします。
 
 
 
翌朝、オーギュストに起こされるジルベール
 
 
 
 
ジルベールは昨晩の事件をもうほとんど忘れてしまっていました。
 
 
まるで無かったかのようにして、心の奥にしまい込んで生きるより仕方なかったのかもしれません。
 
 
オーギュストに拒絶されていた事さえ忘れ去ろうとしていました。
 
 
とまれジルベールは環境の変化に順応する事が早く、そしてとても強かったのです。
 
 
オーギュストはその強さに舌を巻くしかありませんでした。
 
 
ジルベールが見せる無防備な甘えや無邪気な仕草に父性を感じる一方で、冷酷な観察者を意識しているオーギュスト。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
強烈な個性を放ち始めたジルベールを連れ、いよいよ花の都パリへ────